リーマンショック以降、速い回復力を見せる韓国経済。今後、景気回復をより確かなものとするために景気刺激策を維持する一方で、新産業の育成、少子化対策、安定した雇用環境の創出などを打ち出している。躍進続ける韓国経済について、日本総研の向山英彦・上席主任研究員に分析していただく。
2008年9月の「リーマンショック」を契機に悪化した世界経済は各国の景気対策に支えられて回復に転じた。その牽引役が中国を初めとする新興国であるため、新興国に対する関心が以前にも増して高まっている。先進国では高い失業率や金融機関の経営悪化などの影響で当面低成長を余儀なくされる一方、新興国は長期的にも需要の高い伸びが期待できることがその理由である。
新興国へのシフトは基本的に韓国にもあてはまる。むしろその典型例であるといっていい。1990年以降の地域別輸出構成比をみると、欧米のシェアが趨勢的に低下している。これには、先進国との通商摩擦や80年代後半に生じたウォンの切り上げ、90年代の欧米における地域経済統合の進展(北米自由貿易協定とEUの成立)などを背景に、韓国企業が欧米での現地生産とアジアへの生産シフトを開始したことが影響している。他方、アジアのシェアは、日本が低下し中国が上昇するという変化を伴いつつ、上昇してきた。生産財に加えて、最近では現地市場向けの消費財が増加している。
アジア通貨危機の影響により、欧米のシェアは97年、98年に上昇したものの、99年以降再び低下した。とくに08年9月の「リーマンショック」を契機に景気が著しく悪化した結果、09年は26・7%と大きく落ち込んだ。生産拠点をシフトした国からの輸出に切り替わった点に留意する必要があるが、90年代初頭の50%前後から半分程度にまで低下したことになる。
アジアを含めた新興国のシェアが上昇したのは新興国の成長の加速に加えて、韓国企業による積極的な市場開拓が指摘できる。現代自動車を例にとると、中国では08年4月に第2工場が稼働したこともあり、09年の販売台数は前年比80%を超え、シェアも9・7%になったと報道されている。同年に米国を抜き世界一の規模となった中国市場での需要の取り込みに向けて、第3工場の建設を既に決定した。同社はインド事業にも力を入れており、08年にはチェンナイにある第2工場が稼働した。09年にはインドで生産された約56万台のうち半数近くが輸出されたが、今後は欧州に輸出に輸出している小型戦略車「i20」をトルコに生産移管して、国内向けの生産を拡大させる計画である。
また、鉄鋼メーカーであるポスコがインドとインドネシアで高炉の建設を計画しているほか、サムスン電子やLGエレクトロニクスなどが新興国でのプレゼンスを高めていることはよく知られている。
政府もFTA(自由貿易協定)網を拡大させることを通じて、こうした企業のグローバル展開を後押ししている。韓国は2000年代初めまでFTAに対する取り組みの点で日本よりも後れていたが、近年、その取り組みを積極化している。国内の市場規模が小さく輸出への依存度が高い同国にとって、他国に先行してFTA網を築くことにより、①通商面での優位性確保、②企業のグローバル展開の後押し、③これらを通じた国際物流や金融機能の強化などが期待できるからである。
06年までにチリ、シンガポール、EFTA(欧州自由貿易連合)との間でFTAを発効させた後、07年6月1日ASEANとの間で商品貿易協定発効、同30日米国と署名、09年5月ASEANとサービス貿易協定発効、7月にEUとの交渉妥結、8月にインドと署名(10年1月発効)など、FTA締結の動きを加速している。
近年の取り組みで特徴的なことは、市場規模の大きい国・地域を優先していることと、韓国側の関心品目である自動車など工業製品分野で成果を挙げるために、相手国の要求を柔軟に受け入れてきたことである。例えば、チリとの間ではトマト、豚肉などを10年以内、米国との間では牛肉を15年以内に関税を撤廃すること、また争点であったスクリーン・クォータ(国内の映画館において国内で製作された映画の一定基準以上の上映を義務付ける制度)を縮小することで合意した。
インドとのFTAでは、インドは輸入額の75%(韓国は85%)を占める品目で8年以内に関税を撤廃する。自動車部品に対する関税率(12・5%)は8年以内に1~5%に引き下げられるため、現地で生産する現代・起亜グループはコスト面で優位に立てる。
日本では最近、企業ならびに政府の間で「アジアの内需取り込み」が盛んに議論されている。この点で、韓国企業と韓国政府の取り組みは大いに参考となろう。韓国企業から学べることは、現地のニーズに見合った製品の開発に成功していること、それを可能にしている人材育成と迅速な意思決定などである。