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2010/03/12

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ②冬季五輪躍進と韓国の課題                                       ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

 近年、液晶パネルやDRAMなどの半導体、携帯電話などのデジタル家電といった分野で世界シェアを急拡大している韓国。躍進する韓国産業界のトレンドや展望などについて、業界事情に詳しいディスプレイの専門リサーチ会社、ディスプレイバンク日本事務所代表の金桂煥氏に分析していただく。

 韓国はバンクーバー冬季五輪で金メダル6つ、銀メダル6つ、銅メダル2つを獲得し、総合5位という過去最高の成績を上げた。一方、日本は銀メダル3つ、銅メダル2つのノーゴールドで20位だった。日本メディアは、韓国の成績はエリート選手の国家による管理と支援によるものとし、自国の限界を指摘した。だが、単純な支援による成果とだけ見るのは、韓国の成績に学ぶべき重要な示唆点を見逃すことになる。過去の冬季五輪で韓国は、ショートトラックでの金獲得は当然のことと見なされてきた。だが、今回の冬季五輪では、スピードスケートとフィギュアスケートで獲得した金メダルがショートトラックの金メダルの2倍にもなった。フィギュアスケートの金妍兒は優れた能力で金メダルを獲得したが、そのような選手を韓国が輩出できるという点が注目される。韓国のスポーツ政策については否定的な見方が多いが、様々な種目の選手を発掘、支援してきた点は高く評価されるべきだろう。

 韓国は過去10年あまり、半導体とLCD産業の飛躍的発展によってエレクトロニクス産業強国というイメージを構築した。一方で鉄鋼、造船、自動車産業も韓国の名を世界へ広める大きな役割を果たした。これら産業が今後も持続的な競争力を維持し、成長できるのかについては論議の余地があるが、成熟期を経た産業である点については皆が同意するだろう。特に、これらの産業は輸出中心の製造業という共通点をもつ。世界経済の変化と直接関係があり、製造業という側面で中国との競争は避けられないことを意味する。実際、造船業と電子産業の一部品目では、すでに中国にシェアを奪われている。中国との競争に全力を傾けることよりも付加価値分野のみを握り、残りは中国と協業するべきという主張もある。いずれにしても、同分野でこれ以上の量的成長は楽観的といえない。

 数年前から韓国に戻ると、「新成長産業」という単語をよく耳にする。今まで韓国の成長を主導してきた産業だけでは成長の速度も規模も落ちるという可能性を念頭に置き、新しく成長を導く産業が必要とされている。

 韓国政府は新成長動力となる産業を選定し、そのビジョンと戦略を提示している。この新成長動力産業は、グリーン技術産業、先端融合事業、高付加価値サービス産業と大きく3分野に分けられ、環境、エネルギー、新素材、医療(バイオ)、教育、文化などの産業を指す。これらの産業育成によって雇用の拡大と成長の持続が可能となることから、政府はあらゆる手段で産業の成長を支援するということだ。そのため、韓国の全企業が新産業について熱心に学んでいる。どのように技術を開発し事業化するかという方法論については、すでに前世代の成長産業を通じて学習している。研究開発の人材とインフラの増加がいかに重要であるかもよく知っている。最適な投資タイミングや決断力もあるということは、すでにLCD産業で示したとおりだ。ただし、個々の企業としては何を選択し、どこに集中するかを決めるのは容易でないようだ。そのため、一先ずはサムスンやLG、現代自の動向を見守っている。

 最近の動向をみると、サムスンとLGがLED事業に大規模投資を実施し、これに関連する素材や装置を扱う企業も投資を増やしている。エネルギーに関してはサムスンとLGが太陽電池事業を本格化させる動きをみせており、OCI(旧・東洋製鉄化学)のように太陽電池の材料を生産している企業も国内で大きな需要があり、急成長の余地がある。現代・起亜自動車は電気自動車事業を本格的に開始したことに伴い、2次電池事業も活力を帯びている。必要部材を供給する企業も成長の契機となるだろう。問題はLEDも太陽電池も2次電池もすでに中国を競争相手にしているうえ、日本がこの分野の核心技術、素材技術をまだ独占しているという点だ。

 LED、太陽電池、2次電池自体は新しい産業ではない。だが、これを活用する環境やエネルギー分野への応用産業、例えばLED照明、高効率の太陽電池、電気自動車などは明らかに新しく、付加価値が非常に高い産業だ。先端素材技術の持続的開発を要する点から、後方産業の成長を牽引できる。この後方産業の成長こそが、韓国経済の成長を意味する。

 しかし、楽観的な展望だけを持ってばかりもいられない。技術、特に素材と装置分野では相変らず対日依存度が高い一方、中国との技術格差はあまり大きくない。韓国政府が主要工業地域内に日本企業による部品素材の専用団地を設け、日本企業の誘致に奔走するのは、こうした理由からだろう。

 ショートトラック偏重から脱し、多種目で成果を勝ち取ったように、韓国の成長産業も、さまざまな分野で世界最高の成果が得られることを期待する。


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