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2010/03/19

<オピニオン>転換期の韓国経済 第2回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

 リーマンショック以降、速い回復力を見せる韓国経済。今後、景気回復をより確かなものとするために景気刺激策を維持する一方で、新産業の育成、少子化対策、安定した雇用環境の創出などを打ち出している。躍進続ける韓国経済について、日本総研の向山英彦・上席主任研究員に分析していただく。

 前回、90年代に入って以降、韓国の輸出に占める欧米(基本的に米国)のシェアが低下し、新興国のシェアが上昇してきたこと、しかも近年ではアジア以外の地域のシェアが上昇していることを指摘した。

 輸出の地域別構成を変化させる一因に、韓国企業による海外生産がある。韓国の対外直接投資に占める米国のシェアは1990年に36・8%(韓国輸出入銀行のデータベース)あったが、その後趨勢的に低下傾向にある(ただし輸出依存度ほど低下しているわけではない)。他方、アジアは対中投資の急増によりシェアが上昇し、2005年は58・7%となった。対中投資額が急増した背景には、WTO加盟(01年)を契機に中国国内における規制緩和が進むとともに、所得水準の上昇に伴い需要が拡大し始めたことがある。

 2000年代に入り国内で投資の伸び悩みと雇用創出力の低下などが生じたため、「中国傾斜」の強まりが懸念されたが、対中投資額は07年をピークに減少した。大型投資がほぼ一巡した上、欧米との通商摩擦、それを契機にした人民元切り上げ圧力の高まり、沿海部における賃金上昇や電力不足など同国の投資環境が悪化したこと、中国政府が外資の選別化を強めた影響などが指摘できる。最近の5年間をみると、中国と米国が主要な投資先である点に変わりはないが、全体として分散化の傾向がみられる。注目されるのはベトナムが上位にあるほか、カンボジアも07年に8位に入るなど、ASEAN後発国が主要な投資先になったこと、またブラジルやロシアなどのBRICs、スロバキアやカザフスタンなど旧社会主義諸国、アイルランドやオランダ、英国など欧州への投資が増加していることである。

 上述したマクロにみられる変化は、現代自動車の事業展開でも確認できる。現代自動車(67年設立)は75年に韓国初の国産車「ポニー」を開発する(エンジンは三菱自動車工業製)。86年に「エクセル」(「ポニー」の後継車)の対米輸出が始まり、その低価格によって売り上げが伸びたため、カナダに北米市場向け工場が設立された。89年から現地生産が開始されたが、耐久性に関する品質不良とアフターサービスの未整備などが原因で北米市場での販売が急減し、93年に閉鎖を余儀なくされた。

 同社にとってカナダ工場の閉鎖は苦い経験であったに違いないが、早期に北米市場へ参入したことはその後の品質改善につながるとともに、それにより途上国市場への参入を容易にさせたといえる。

 海外現地生産(ノックダウンを除く)が活発化するのは90年代後半になってからである。97年トルコ、98年インド、02年に中国で現地生産が開始された。中国とインドでの生産拡大に加えて、米国での現地生産が05年に始まったため、海外生産は2000年代後半に急拡大した。その後08年にインドと中国の第2工場、09年にチェコの工場が相次いで稼働し、海外生産拠点の総販売台数は09年に150万台に達した。そのうち、中国とインドが74・3%を占める。中国が完全に国内市場向けの生産であるのに対して、インドの生産拠点はインド国内のみならず欧州、中東、アフリカなどに輸出している。さらに近い将来、ロシアとブラジルで現地生産が開始される計画である。

 他方、韓国からの輸出は近年頭打ちになりつつある。現地生産に伴い欧州(西欧+東欧)向けの輸出が著しく減少した。対米輸出は依然として20万台を超えているが、今後現地で生産する車種が増えるため、輸出は漸減していく可能性が高い。輸出が増加しているのは、現地生産がまだ開始されていない中南米と中東・アフリカ向けで、09年は全輸出台数の45・1%を占めた(図参照)。ただし、中南米に関してはブラジルでの現地生産が開始されれば減少に転じる可能性がある。アフリカへの輸出は05年には初めて年間10万台を超え、年々着実に増加している。主な輸出先はエジプト、南アフリカ共和国、アルジェリア、モロッコ、ナイジェリアなどである。


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