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2010/04/02

<オピニオン>国際展示会での活動と役割                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から59回までの記事掲載中)

 韓日間の経済交流が活性化する中、韓国企業で働く日本人技術者やビジネスマンが増えている。本田技術研究所のチーフエンジニアを経て、2004年にサムスンSDI中央研究所の常務に就任、現在は拠点を東京に移し、日本サムスンに逆駐在の形で席を構えた佐藤登さんの異文化体験記をお届けする。

 3月上旬、東京にて二次電池、太陽電池、燃料電池に関するエネルギー貯蔵と発電の国際EXPOが開催された。昨年も7万人弱の参観者を得たこのEXPOは、今回に至っては8万人を超えた。

 昨年の二次電池フェアというスタイルから国際二次電池展という名称に切り替え大々的に開催したこと、そして昨今の電池ブームが参観者を増加させた大きな要因である。主催者の計画では、来年はこれらのイベントに加え、エコハウスとスマートグリッドの展示会も追加することで13万人以上の参観者を計画している。

 展示会に先立って開会セレモニーとして実施された国際二次電池展の基調講演では、サムスンSDIもその一翼を担った。本来は、日米欧の政府関係筋が基調講演をすることで企画されたが、結局、欧米ができないと拒絶したため、急遽、産業界に振られたためである。

 経済産業省と日本の産業界を代表してパナソニックエナジー社の社長、そこまで決まった段階で主催者側から私宛に突然連絡が入り、海外を代表してサムスンに是非お願いしたいという急な申し入れであった。

 基調講演を受けた場合の意味合いをさまざまな視点で分析し、韓国の担当役員へ送付し最終的にはCEOへ打診して対応することを決めたのである。

 当日は、韓国の本部から来日した常務が基調講演を行ったが、終了してからのVIP懇親会では主催者側からも感謝されるとともに、多くの聴講者からも賞賛を受けるに至った。

 サムスングループでは、世界のトップを行く半導体や薄型テレビ、パネル事業、携帯電話などの国際展示会では派手に宣伝したり基調講演を担ったりなど、活発な展開を図ってきたが、エネルギー領域での戦略的な発信は韓国内以外ではこれが最初という程度であったため、聴講者からも「良く理解できた」と好評を得た。

 以前、2006年初旬に東京で開催されたアジアの化学産業興隆のための国際会議に招待され、弊社のCEOに代わって自ら講演した経緯があるが、この時に体験したことは、サムスングループの紹介と実態を説明したことで、日本では多くの誤解や曲解がひとり歩きしている部分を認識したことである。

 いかにサムスングループが日本の装置産業や素材産業の協力を得ながら日本の産業経済に貢献しているかの事情を説明したが、今後はこのような活動が自然体でできるようにすることが肝要である。

 3月の本紙でも記述したように、リチウムイオン電池の安全性に関する国際標準化に向けて韓国が日本と協調路線で議論できている実情、一方では、的確な技術競争をしながらビジネスを拡大していく姿勢、そのような状況を正確に発信し理解してもらう活動が、ますます重要になる。

 2000年代初頭に経済産業省が描いた先進自動車戦略では、2010年の日本における燃料電池自動車を5万台、2020年には500万台という普及目標で、大手自動車メーカーは鎬を削った開発に取り組んだが、残念ながら2010年を迎えた現在、わずか30台足らずの燃料電池試験車がデータ取りに使われているに過ぎない。全くの大きな誤算であり、その指標を見て薔薇色のビジネスを描いた素材メーカーも少なくなかったはずである。米国もブッシュ政権で打ち出された水素社会の実現に大投資を図ったが、オバマ政権になってから水素エネルギーよりも二次電池への期待感を多く抱き、大規模な国家プロジェクトを推進中である。燃料電池自動車もカリフォルニア州を中心にトーンダウンしている。

 経済産業省の新たなシナリオは環境自動車に力点を置くものの、燃料電池自動車ではなく、特に電気自動車において2020年の国内普及台数を80万台に設定した。航続距離や充電時間、価格とどれをとっても言い訳が付きまとう電気自動車を如何にして普及させるのか、税制優遇や環境規制を含め、さまざまな手法が必要になるだろうが政府の一貫した論旨と実行こそが必要になるのは事実で、このようなプランを以前の燃料電池自動車ブームの火付け役だけで終わらせることだけは避けねばならない。

 いずれにしろハイブリッド自動車は言うまでも無く、電気自動車も将来的には避けては通れない手段であるから、揺籃期の現段階では的確な政策戦略と電池を中心としたブレークスルーの両輪が可能性を拡大する原動力となるだろう。


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