リーマンショック以降、速い回復力を見せる韓国経済。今後、景気回復をより確かなものとするために景気刺激策を維持する一方で、新産業の育成、少子化対策、安定した雇用環境の創出などを打ち出している。躍進続ける韓国経済について、日本総研の向山英彦・上席主任研究員に分析していただく。
前回、韓国の対外直接投資が2000年代半ばから急増し、韓国企業による海外での事業展開が活発化していることを指摘した。2000年代に入ってから生じた国内の消費低迷や少子高齢化の進展、新興国の成長加速などが、企業のグローバル志向を一段と強めたと考えられる。
対外直接投資の急増は国際収支表からも確認できる。資本勘定のなかの直接投資収支(ネット)をみると、通貨危機後の1999年、00年は海外からの直接投資流入額が著しく増加して黒字となった。財務基盤の悪化した韓国企業に外資系企業が出資するなど、M&Aの嵐が吹き荒れたことは記憶に新しい。
近年の直接投資収支は逆に大幅なマイナスとなっている(下図)。
海外への流出額(韓国企業の対外投資のほかに海外企業の韓国からの引き揚げ分を含む)が05年の43億㌦から07年に156億㌦へ4倍近くに増加した(08年189億㌦、09年106億㌦)一方、海外からの流入額(海外企業の対韓投資のほかに韓国企業の引き揚げ分を含む)が伸び悩んだことによる。
注目したいのは、経常勘定(貿易収支、所得収支、経常移転収支から構成)のなかの所得収支(「雇用者報酬」と「投資収益」)が近年黒字に転じたことである。
韓国では比較的最近まで「雇用者報酬」は黒字、「投資収益」が赤字という状態が長く続き、後者の赤字幅が前者の黒字幅を上回っていた。
「投資収益」は、韓国が対外直接投資や証券投資などにより積み上げた資産が生み出す収益(配当や利子など)から、海外の諸国が同様に韓国で積み上げた資産が生み出す収益を差し引いたものである。これが08年、09年と2年続けて大幅な黒字を記録したため(下図)、所得収支が黒字になった。
08年は原油価格高騰の影響により貿易収支が110億㌦の赤字となったが、所得収支が59億㌦の黒字となり、経常収支の赤字縮小に寄与した。
「投資収益」とは対照的に、「雇用者報酬」は09年に赤字に転じた。「雇用者報酬」の赤字は、韓国の居住者が海外で稼得した報酬よりも、非居住者が韓国で稼得した報酬が上回ったことを表している。以前には多くの韓国人が海外で建設労働などに従事したが、近年その数が減少し、反対に韓国で就労する外国人が増加している現実を反映しているといえよう。
日本では05年に初めて所得収支の黒字が貿易収支の黒字を上回った。韓国がその段階に到達するまでにはまだ多くの年月を要しようが、所得収支の黒字転換は韓国が「投資受入国」よりも「投資国」としての役割を強めていることを示すものである。
このように国際収支の動きから、韓国が「投資受入国」よりも「投資国」、「労働輸出国」よりも「労働受入国」としての性格を強めていることが読みとれる。96年のOECD(経済協力開発機構)加盟により、形式的に韓国は先進国の仲間入りをしたが、実体経済面でも先進国入りをしたといえそうだ。韓国企業が海外とくに新興国での事業を積極的に推進したことが、今日の世界市場における韓国製品のシェア上昇につながったことはいうまでもないが、マクロ的にはどう評価できるのであろうか。対外直接投資には生産財(原材料、部品、機械設備)の輸出誘発、投資収益の還元などを通じて、国内経済にプラス効果をもたらす。
韓国では信用不良者の増加(クレジットカード利用促進策の影響)を契機に導入された信用抑制策の実施により、03年、04年に民間消費がほぼ前年比ゼロ成長となる「消費不況」に陥ったが、輸出が著しく伸びたため、実質GDP成長率は2・8%、4・6%となった。投資収益の還元については上述した通りである。こうした半面、国内での産業高度化が進展しなければ、対外直接投資の拡大は雇用問題を引き起こす可能性がある。経済のグローバル化が急速に進むなかで、国内における投資の伸び悩みと雇用創出力の低下に直面しているのが現在の韓国である。