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2010/04/23

<オピニオン>東ア市場における韓日企業の役割                                                 サムスン物産 李 洙喆 諮問役

  • サムスン物産 李 洙喆 諮問役

    イ・スチョル 1949年慶尚北道生まれ。成均館大学卒。サムスン物産副社長、日本サムスン社長、駐日韓国企業連合会会長、韓日新産業貿易会議の韓国側コーディネーター等を歴任。2009年旭日中綬章受章。現在、同社諮問役。

 韓日の経済交流や協力、連携の在り方を探る「韓日経済人会議」が岡山市で開かれ、李洙喆サムスン物産諮問役が「東アジア市場における韓日企業のビジネス協力の方策と役割」と題して報告した。その要旨を紹介する。

 昨今の経済危機は、米国の金融危機に端を発したものであるにもかかわらず、東アジアに位置する韓日両国の企業、とりわけ製造業に甚大な影響を及ぼしているというのが大きな特徴だ。金融危機以前の韓日企業にとって重要な課題は、優れた製品で如何に先進国市場を攻略するかだった。

 ところが金融危機以降、米国やEUなどの先進国市場は冷え込む一方、中国やインドのような新興国市場の台頭が著しくなったことから、韓日両国の企業も従来のビジネスモデルや戦略の転換を余儀なくされている。

 最近、日本の企業は、先進国市場の低迷を受け、主力マーケットを新興国にシフトさせる、いわゆる「ボリュームゾーン」戦略へと舵を切ったように見受けられる。

 韓国企業も、日本と同様、急激な環境の変化に直面している。これまでは、日本企業が先進国企業に注力し、韓国企業は新興国市場に力を入れるという分割構図を通じて、韓国の企業もある程度の活力を維持することが出来た。

 ところが日本企業が新興国市場におけるボリュームゾーン戦略を鮮明に打ち出したことで、韓国企業は新たな競争局面を余儀なくされている。その上、中国など新興国における地場企業の躍進により、韓国企業は新たな「サンドイッチ」状況に置かれることになるだろう。

 IMFの推定によると、先進国の名目GDPのウエートは2009年の53・8%から2014年には49・3%に減る一方、新興国のそれは20・4%から24・8%に増えるという。その後も、日を追うごとに新興国のウエートは高くなるだろう。両国企業による激しい競争と競合が予想されるところでもある。その一方で、新興国市場における行き過ぎた競争は、価格の下落と過剰設備を招き、市場全体を棄損し、双方に損害を与える可能性も排除できない。

 私は、東アジアの経済は韓日中3国が先頭に立って協力し合い、大事に育てていかなくてはならない市場であると考えている。したがって、まずは韓国と日本の企業が力を会わせて「WIN―WIN」となる方策を構築し、東アジア経済のダイナミズムを維持することが何よりも重要であると思う。

 具体的には、互いの比較優位を生かした協力の強化が最も重要であると考える。例えば、最近の日経ビジネスの報道によると、韓国企業が製品の生産はもちろん、中国などの新興国に工場を設立するなどで生産と設備投資を強化した結果、日本の素材・部品・装置産業の景気が息を吹き返したという、いわゆる「日中韓トライアングル景気」が現れ始めているということだった。

 韓国が比較優位をもつ自動車、半導体、液晶パネルなどの業種に関連をもつ日本の副資材・装置メーカーが韓国の好景気の恩恵に浴しているというのだ。そうした点から私は、今、韓日両国企業が互いの比較優位を生かして協力し、分業する構図が最もうまく構築されていると思う。また、こうした構造が、中国やASEANなどを含む東アジア全体に急速に広がって行くよう期待している。

 「ボリュームゾーン」戦略の真髄は、現地の消費者が欲するスペックの商品を廉価で提供することにある。したがって、大企業間の協力や、現地企業との協力はもちろんのこと、日本の最終財メーカーと韓国の中堅・中小の素材・部品メーカーと共に進出するとか、また逆に韓国の最終財メーカーが日本の企業と一緒に進出して新興市場で付加価値を高めることも可能だろう。

 一部の意見であるとは思うが、最近日本では「韓国脅威論」が取り沙汰されているようだ。韓国の一部大企業の成果は、一時的に脅威として映るかも知れないが、日本企業の協力なくしては不可能なことであり、また日本企業にもその果実が還元されている。両国の企業が新興国市場の中で、限られたパイを奪い合うために競合するゼロサム・ゲームでなく、互いに協力してマーケットのパイを大きくし、共にWIN―WINとなる関係を作っていくことこそが、「ボリュームゾーン」戦略で欠かすことのできない重要な戦略であると考える。

 さらに、韓日両国企業が競争優位の要素を補い合うべく、相手国に積極的に進出する戦略が必要になるだろう。一部の部品・素材メーカーは、韓国企業と協力する過程で、日本では得ることの出来ない貴重なノウハウを得ているとも言っている。

 巨額の研究開発費をかけて開発した技術の流出を喜ぶ企業人はいないだろう。しかし、だからといって、その技術だけが最上の技術であるという保証はない。最近、日本企業の研究開発の効率が急速に低下しているとする各種研究結果がこうした事実を裏付けていると言える。

 そして、私は、韓国企業もまた積極的に日本に進出すべき時であると考えている。これからは韓国企業もグローバル企業として生まれ変わる過程で、日本に積極的に進出するべきだ。

 今後、韓国企業は、多岐の分野にわたり、日本企業との協力を積極的に進めるべきであると考えている。


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