リーマンショック以降、速い回復力を見せる韓国経済。今後、景気回復をより確かなものとするために景気刺激策を維持する一方で、新産業の育成、少子化対策、安定した雇用環境の創出などを打ち出している。躍進続ける韓国経済について、日本総研の向山英彦・上席主任研究員に分析していただく。
前回まで、韓国経済のグローバル化が2000年代に急速に進んだこと、これにより輸出が成長の牽引役になったほか、国際収支の「投資収益」が黒字に転換したことを指摘した。こうしたプラス効果がもたらされる一方、韓国国内では雇用創出力の低下や格差の拡大などが問題となっている。
まず、雇用創出力の低下である。最近5年間の雇用創出(就業者数の対前年増加数)は04年の41・8万人が最大で、それ以降は30万人を下回り、世界経済後退の影響を受けて景気が減速した09年は7万人の減少となった。
雇用創出力の低下要因には、①総固定本形成が伸び悩んでいること、②半導体や液晶パネルなどの輸出産業は資本集約的であるため、投資拡大による雇用創出効果が小さいこと、③サービス産業の成長が後れていること(後述)などがある。投資の伸び悩みと、企業の海外事業の積極化とは無関係ではないだろう。
つぎに、所得格差の拡大である。韓国では通貨危機後に非正規労働者が増加したことにより所得格差が拡大し、その是正が最近までさほど進んでいない。「家計調査」(統計庁)によれば、2009年の世帯平均収入の対前年伸び率は名目1・5%増、実質1・3%減になった。
注意したいのは、名目可処分所得が第一分位(所得が下から20%までの世帯)3・1%減、第二分位2・0%増、第三分位1・8%増、第四分位1・1%増、第五分位(上から20%の世帯)0・7%増と、低所得層の減少率が最大となったことである。これは、今回の不況で自営業者と非正規労働者が多く失業したためである。このことが所得格差の拡大と貧困率の上昇につながっている。
所得格差に関しては、ジニ係数(1に近いほど不平等度が大きい)は08年の0・315から09年に0・314へやや低下したが、第五分位の第一分位に対する所得比率は同期間に5・71から5・76へ上昇した。また、相対的貧困率(所得の分布における中央値の50%に満たない国民の割合)も06年の14・4%から08年15・0%、09年に15・2%へ上昇した。
このように経済のグローバル化は国内に解決すべき問題を残した。格差を是正し社会の安定を維持するためには、セーフティーネットの強化(低所得層に対する生活支援と臨時雇用事業など)とともに、十分な雇用機会を創出することが求められる。雇用創出という点では、サービス産業の成長が欠かせない。このことは、製造業の就業者数が01年の426万7000人から08年に407万9000人へ18万8000人減少したのに対して、サービス産業の就業者数が同期間に1513万9000人から1778万4000人へ264万5000人増加していることからも裏づけられる。
問題は雇用創出効果の高いサービス産業の成長率が製造業の成長率を下回っていることである。その傾向は、国内の民間消費が低迷した2000年代前半に顕著に表れた(上図)。
国内の雇用環境の厳しさが消費の低迷につながり、そのことによりサービス産業の成長が抑えられるという悪循環がみられる。この点を踏まえると、サービス産業の振興には、今後の経済社会の変化に伴いニーズが高まる「内需型」サービス産業の成長を図るとともに、経済のグローバル化に伴い成長が期待されるサービス産業を振興させていくことが重要となる。
李明博政権は「グリーン・ニューディール事業」と新たなサービス産業(医療、教育、物流、コンテンツ、放送・通信、コンサルティングなど)の振興を図っている。少子高齢化の進展は生活支援や健康関連サービス、「環境にやさしくエネルギー効率の良い」生活空間や都市づくりの推進は建設、デザイン、ITサービスなどの産業の成長につながることが期待できる。また、企業活動のグローバル化は国際物流や金融などのサービス産業の成長を促すであろう。
経済のグローバル化を進めながら、国内で規制緩和や投資インセンティブを通じて新産業の成長と企業の生成を促し、雇用機会を創出できるのかどうか、李明博大統領の手腕が試される。