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2010/06/18

<オピニオン>転換期の韓国経済 第5回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第5回 

 リーマンショック以降、速い回復力を見せる韓国経済。今後、景気回復をより確かなものとするために景気刺激策を維持する一方で、新産業の育成、少子化対策、安定した雇用環境の創出などを打ち出している。躍進を続ける韓国経済について、日本総研の向山英彦・上席主任研究員に分析していただく。

 前回、経済のグローバル化が進む一方、韓国国内では雇用創出力の低下や格差の拡大が問題となっていることを指摘した。雇用創出力低下の影響を最も強く受けているのが若年層といえよう。

 景気回復に伴う民間部門の雇用増加と政府による臨時雇用事業の再開により、全体の失業率は2010年5月に3・2%へ低下した。若年層の失業率は15~19歳が7・9%、20~24歳が7・3%、25~29歳が5・8%と一時期より大幅に低下したとはいえ、依然として高い(男性は各12・7%、7・0%、7・2%)。

 注意したいのは、大学を卒業して間もない25~29歳の失業率(年平均)が00年の6・0%から09年に7・1%へ上昇したことである(下図)。国際的にみて決して高い水準とはいえないが、失業統計に表れてこない短時間労働者、就職に備えて通学(就職予備校や大学院)したり公務員試験の勉強に専念している者、就職活動をしていない者を加えた「事実上の失業率」は20%を超えると考えられる。

 また、統計庁によれば、15~34歳におけるニート(教育を受けておらず、労働や職業訓練もしていない若者)の数は04年の33万人から09年には43万人(推計)へ増加しており、若年層の失業ないし無業問題は大きな社会問題である。

 25~29歳の失業率が上昇した要因には、①通貨危機後、企業が即戦力を求めて中途採用を増やしたこと、②投資の伸びとその雇用創出力が低下したこと、③大学進学率が急上昇したこと、④大卒者の大企業就職願望(背後に家族の期待)が強いことなどが指摘できる。大学の新設や入学定員の増加に加え、「良い」職につく目的で大学へ進学する傾向が強まった結果、大学進学率は1990年の33・2%から09年に81・9%へ上昇した。しかも雇用環境が厳しさを増すなかで「より良い」職をめざす競争は激しくなり、社会の教育熱は否応なく高まった。このことは家計の負担増大となって表れている。統計庁の「家計調査」によれば、勤労者世帯(単身世帯を除く)平均の支出全体に占める教育費の割合は03年の8・4%から09年に10・5%へ上昇した。教育費負担の増大が少子化の一因になっていることはいうまでもない。

 しかも、厳しい競争を勝ち抜き国内の一流大学を経て留学したとしても、大企業に入れるのはほんの一握りでしかない。こうした競争システムは大企業の人材強化に貢献しているが、そこから脱落する人たちが圧倒的多数を占めるのが現状である。

 問題なのは、学歴に見合う「ディーセント・ワーク(働きがいのある仕事)」が少ないことから、高学歴の「無業者」が多数生まれている一方、中小企業では人手を確保するのが難しく、海外からの就労者に頼らざるをえなくなっていることである。政府は04年に「雇用許可制」を導入して労働市場の開放に踏み切った。製造、建設、農畜産、サービス産業などに属する従業員300人未満の事業所が韓国人労働者を雇用できない場合、所定の手続きに従い外国人労働者と雇用契約を締結することを認めるものである。受け入れ人数は政府が国内の労働市場の動向を踏まえて決定し、相手国政府との間で覚書が締結される。「雇用許可制度」にもとづいて雇用された外国人就労者数は05年の3万4826人から09年には15万8202人へ増加している。

 以上のことが示すように、韓国が持続的成長を遂げるためには、若年層の失業問題を解決していく必要がある。政府に求められることの一つは、規制緩和や投資インセンティブを通じて新産業の成長と企業の生成を促し、「ディーセント・ワーク」を創出することである。もう一つは、職業訓練プログラムの拡充や中小企業における労働環境の改善を通じて、優秀な人材が中小企業に向かうようにすることである。そうなれば、労働市場のミスマッチが解消されるだけではなく、韓国の課題の一つである中小企業の技術力強化にもつながるであろう。


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