近年、液晶パネルやDRAMなどの半導体、携帯電話などのデジタル家電といった分野で世界シェアを急拡大している韓国。躍進する韓国産業界のトレンドや展望などについて、業界事情に詳しいディスプレイの専門リサーチ会社、ディスプレイバンク日本事務所代表の金桂煥氏に分析していただく。
中国と台湾が6月29日、ECFA(経済協力枠組み協定)を締結した。2003年に中国が香港、マカオと締結したCEPA(経済貿易緊密化協定)に類似した性格の協定であり、事実上のFTA(自由貿易協定)に該当する。韓国の知識経済部によれば、今回のECFAの最も大きな特徴は、EHP(早期収穫プログラム)を含み、関税引き下げの効果を早期達成できるように設計されている点だ。EHPは、関税引き下げ(または無関税)を関税率の低い製品から早期実施すること。
中国は台湾産539品目、台湾は中国産267品目に対してEHPを適用し、2年間で3段階に分けて無関税を実施する見通しだ。この協定が今年下半期に発効されれば、来年1月1日から台湾産108製品に対して無関税が適用される。そして2年以内に全体806品目に対する相互開放が完成し、新たな巨大中華経済圏が誕生する。GDP基準で日本市場より大きな5兆3000億㌦規模の「チャイワン」時代の開幕けである。
中国共産党は、経済的要因というよりも台湾に対する影響力拡大及び香港とマカオに続き台湾を含んだ「チャイニーズベルト」という歴史的構築のために破格の譲歩をしたと伝えられている。例えば中国農産物の台湾輸出を放棄し、むしろ台湾農産物を受け入れる方針だ。半面、台湾は莫大な経済的利益を得る。台湾は無関税によって中国市場で価格競争力を強化でき、約65億香港㌦の関税節約と早期開放品目に対する輸出増大で約136億香港㌦の利益を期待できるようになった。
一方、このような中国と台湾の経済的密着は、韓国の産業界にとって警戒すべき大きな脅威であると考えられる。韓国は対中国輸出の主力製品のうち、半導体とLCDを含めた14品目で台湾と競合している。輸出金額でみると、対中国輸出額の60%以上が台湾との競合品目だ。したがって、台湾製品が無関税で中国に入る場合、韓国製品の価格競争力は大幅に低下する。LCDパネルメーカー上位1、2位のサムスンとLGディスプレーは、グローバル金融危機が始まった2008年後半から09年間に果敢な投資で3、4位の台湾LCDメーカーとの格差を大きく広げた。この構図は今年に入っても余り変わっていないが、差は再び縮まっている。
例えば今年6月に出荷された10インチ以上の大型LCDパネルの47%が韓国、42%が台湾で生産された。台湾内ではAUOとCMIが莫大な規模の新規投資や合併など新たな成長に向けた計画を次から次へ実現し、中国本土企業との資本的提携を通じたいわゆるディスプレー産業の良案一体化も加速化させている。こうした台湾企業の動きがある中、今回のECFAが成立した。
中国のテレビ市場が大きく成長しており、今後3年以内に世界最大のテレビ市場である米国と欧州水準へ成長することが予想される。中国のテレビ市場は韓国と台湾のLCDパネルメーカーにとって非常に大きな市場であり、当然ながら中国市場での勝負が全体シェアにも大きな影響を与える。パネルメーカーは先駆けて中国にLCDパネル工場を建設するため、中国政府の承認を申請。中国のBOEと台湾のAUO、CMIが8世代工場、日本のシャープが6世代工場の許可を受けた。韓国と日本の8世代工場計画に対し、まだ中国政府の公式許可は出ていない。中国と結託した台湾がますます有利となっている。
一方、韓国のLCDパネル技術と生産能力は7世代?以上で台湾を大きく先んじており、この技術格差は今後も持続するだろう。しかし、成長する中国のLCDパネル生産能力を台湾と合わせれば、韓国に肉迫した水準になるとみられる。世界最高のLCD生産国家である韓国といえども、中国市場で必ず勝利するという保証はない。ブランドのプレミアム化を強化するだけでは、中国での根本的な競争力は確保できないだろう。良い製品を安く供給しなければならないという単純明快な課題の解決方法を探さなければならず、韓国企業としては簡単に代案が見つからないかも知れない。こうしたことから韓国政府の役割は大変重要になっている。中国と議論しているFTAは締結に向けた交渉を加速をさせ、進展させなければならない。
一方で、台湾との政府間の関係改善も急がなければならない。過去20年間に韓国は中国の「一つの中国」を支持しており、台湾政府が韓国政府を敬遠する理由となっている。台湾企業と韓国企業間には相当な協力、提携関係があり、共生の道を摸索できる余地もある。このようなあらゆる動きの最終目標は東アジア経済区域の創設となるべきだろう。韓国、中国、台湾、日本が参加するこの統合経済圏こそ、領域内全ての国家の競争力を向上できる唯一の道ではないか。