リーマンショック以降、速い回復力を見せる韓国経済。今後、景気回復をより確かなものとするために景気刺激策を維持する一方で、新産業の育成、少子化対策、安定した雇用環境の創出などを打ち出している。躍進を続ける韓国経済について、日本総研の向山英彦・上席主任研究員に分析していただく。
韓国企業によるグローバルな事業展開に伴い、近年世界の薄型テレビ、自動車、半導体、液晶パネル市場などで韓国製品のシェアが上昇した。こうしたなかで日韓貿易関係にどのような変化がみられるのであろうか。
まず指摘できるのは、日本経済が長期にわたり低迷したこともあり、日本の「市場としての役割」が急低下したことである。
対日輸出依存度(輸出総額に占める対日輸出額の割合)は2000年の11・9%から09年に6・0%へ低下した。対中輸出依存度が同期間に10・7%から23・9%へ上昇したのとは対照的である。
つぎに、輸入面では輸出面ほどの落ち込みをみせていないことである。最大の輸入相手国の地位を07年に中国に譲ったものの、09年の対日輸入依存度は前年の14・0%から15・3%へ上昇し、対中輸出依存度の16・8%に迫った。
世界市場では多くの分野で日本製品と韓国製品が競合しているが、韓国の輸出回復に伴い対日輸入が増加したように、日韓貿易には「補完的」な関係が存在する。
これは、韓国が輸出生産に必要な高品質の素材、基幹部品、製造装置を日本に大きく依存しているからである。その結果、輸出が拡大すれば対日貿易赤字が膨らむ傾向がある(下図)。
また最近では、自動車のような耐久消費財の輸入増加も赤字要因となっている。
対日貿易不均衡は古くて新しい問題である。韓国政府は70年代に「輸入先多辺(多角)化品目制度」を導入し、日本からの輸入を事実上制限することで対日貿易不均衡を是正しようした。
しかし、これは日韓貿易にみられる「補完関係」を無視したものであった上、WTOの原則に反すること、OECD加盟(96年実現)に向けて規制緩和を進める必要があったことなどから徐々に緩和され、99年6月末に完全撤廃された。
それ以降、貿易不均衡是正策としては、①韓国国内の部品および素材産業に対する技術開発支援、②韓国企業の対日輸出促進、③日本企業の誘致ならびに韓国企業との提携促進など、拡大均衡をめざす方向に変化しており、こうした枠組みの下で日韓協力が進められてきた。
これにより対日貿易不均衡は以前ほど政治問題化することはなくなったが、今日でも日韓関係に影を落としている。
日韓経済連携交渉の中断はその代表例といえる(03年12月に開始された同交渉は04年11月以降中断)。韓国政府は関税撤廃によって貿易赤字が一段と拡大することを懸念し、日本に対して農水産物市場の開放や産業協力、非関税措置の撤廃、政府調達の市場開放などを通じて利益の均衡を求めているが、両国間の認識のズレは埋まっていない。
対日貿易赤字額の推移が示すように、貿易不均衡の是正は進んでいない。09年に8年ぶりに前年水準を下回ったのは、内外需が著しく減速したためである。それでは韓国における国産化は進んでいないかというと、必ずしもそうではない。液晶パネルに関しては、日系を含む外資系企業による現地生産の開始によりガラス基板、カラーフィルタ、偏光板などの国産化は進んだ。その一方、パネル製造の前工程に使用される露光装置、ドライエッチング、プラズマCVDなどの製造装置やタッチスクリーンパネル用ITOフィルムは基本的に日本に依存している。また、LEDの製造装置であるMOCVDも輸入に依存しているのが現状である。
韓国政府は09年8月、半導体、ディスプレー、LED、太陽光発電パネルなど主要8分野を選定し、これらを重点的に育成することにより現在30%程度の国産化率を10年以内に70%へ引き上げる計画を発表した。その成果が期待される半面、輸出品目が高度化すれば、それに必要な基幹部品や製造装置を日本から輸入することにならないかという疑問が残る。ただしこれは、①これらの分野で日本が比較優位を維持していること、②韓・EUのFTAが発効し、韓国が欧州からの調達に切り替えないということが前提にある。