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2010/07/30

<オピニオン>韓国経済講座 第119回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

 英国開催でありながら、英国人がほとんど参加せず外国人に占領されてしまった感のあるテニスのウィンブルドン大会になぞらえ、外来勢力に席巻されるさまを指す「ウィンブルドン現象」。IMF通貨危機以降、韓国はこのウィンブルドン現象が進んだ。一方で日本は、製品が特定市場で独自進化し、他では通用しなくなる現象の「ガラパゴス化」が進んだ。「ウィンブルドン効果からアンチガラパゴス化へ」をテーマに、笠井信幸・アジア経済文化研究所理事に分析していただいた。

 韓国産業はガラパゴス化するのか?そんなことはない、と言われている。では何故だろうか。韓国経済が新たに再生したきっかけは1997年の通貨危機からの復興過程にある。危機後の企業・金融構造改革によって、それ以前の財閥主導型経済を再編成した。また、IMFによるコンディショナリティ(融資条件)では、貿易・資本の自由化、企業の透明性改善、労働市場の流動化など幅広い改革に取り組むことを義務付けられ、さらに外国人投資限度枠の98年内撤廃、債券・金融市場開放、外国人株式投資限度拡大、銀行経営への政府干渉排除、負債比率縮小の為の資本市場整備など大幅な経済開放を行った。

 特にこの時期は、IMFコンディショナリティ実施と企業のグローバル化が重視されており、閉鎖的なオーナー企業構造の改編や国際的経営方式の導入促進のため外国人投資誘致と企業構造調整を阻害するM&A規制を殆ど廃止した。98年2月には義務公開買収制度の廃止、97年末に上場株式に対する外国人総投資限度55%まで引き上げ、98年5月外国人に対する株式投資限度を撤廃、2000年7月株式型私募M&Aファンド許容などの市場開放措置が進められた。表にみられるように外国企業の参入は資本のみならず人事まで及んだ。

 これ以降、これまで閉鎖されてきた多くの部門に外国人資本が流入することになった。そして、それまで優遇されてきた国内企業は市場撤退やM&Aにより旧式体質が徐々に消えていった。こうした現象を「ウィンブルドン現象(効果)」と言う。つまり、規制緩和したことにより外資系企業の参入に押され、国内企業が淘汰されてしまう状況を、イギリス人がほとんど参加せず外国人に占領されてしまった感のあるテニスのウィンブルドン大会になぞらえて「ウィンブルドン現象(効果)」と言われている。韓国経済はIMF危機以降このウィンブルドン現象が進んだのである。

 その間、日本では「ガラパゴス現象」が進んだ。技術水準は最高にあるが「事実上の世界標準(ディファクトスタンダード)」からかけ離れた日本製携帯電話を評してよく使われている言説である。

 ところで、ウィンブルドン効果によって欧米化される韓国企業が輸出する製品には多くの日本製部品、素材が使われているのも事実である。そうであれば、韓国製品もいずれはガラパゴス化されるのではないかと懸念される。しかし実際はそうではない。米ITコンサルタントガートナー社によれば携帯電話の09年における世界市場は12億1124万台で、1位はノキアの約4憶4000万台(シェア36・4%)、2位はサムスンの2億3577万台(19・5%)、3位はLG約1億2200万台(10・1%)と続く。こうみると、韓国の携帯電話はガラパゴス化されるどころか、ウィンブルドン効果を逆手に取った大手企業のディファクトスタンダードに合わせた市場戦略が功を奏していると言える。

 しかし、日本ではキャリア(電話会社や携帯電話会社のように、自前の通信設備を持ち、広範囲にサービスを提供する事業者)から携帯端末を購入する「垂直統合型市場」が形成されており、そのため端末メーカに国際競争力が付かずガラパゴス化されたと言われている。その点韓国も同じで、国内市場は垂直統合型でガラパゴス化しており、例えば、統一規格として当初はCDMAを採用し、その後3GではCDMA2000が採用され、最近ではW-CDMAのキャリアも営業している。こうしたキャリアの市場支配が定着したのが日本のガラパゴス化を促進させたことから、韓国ではより一層の水平統合型パラダイムの追及による「アンチ・ガラパゴス化」が必要かも知れない。


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