日本に居住する中国籍を持つ朝鮮民族「在日朝鮮族」。正確な人数は把握されていないが、こうした在日朝鮮族は現在、日本で6―7万人に達し、特に首都圏には4―5万人が在住していると言われる。その多くは、中国語、韓国語、日本語に長けており、言語優位性を持ち合わせ、次世代を担う東アジアの懸け橋になると期待される。在日朝鮮族について笠井信幸・アジア経済文化研究所理事に分析していただいた。
彼らは自分たちを「中国朝鮮族」と言う。「中国」には中国在住、中国から入国した、中国籍を持つ、といった意味があり、「朝鮮族」は中国内の55の少数民族のひとつ、中国在住の海外朝鮮民族等の意が込められる。つまり、中国朝鮮族とは中国から渡来した朝鮮族、中国籍を持つ朝鮮民族の意味があるのだ。したがって、朝鮮半島から渡来した朝鮮民族とは一線が引かれている。だが、日本人から見ると少し奇異な感じがする。日本の入国統計は国籍別で入国者を分けており、民族別区分けは存在しない。そのため日本では国籍によって中国人、韓国人などと分けている。そして、日本に滞在、居住または僑寓(きょうぐう、戸籍を移さず居住すること)している外国人を在日アメリカ人、在日華僑等と呼んでいる。したがって、ここでは日本に居住・僑寓する中国から入国した朝鮮民族を「在日朝鮮族」と呼ぶことにする。
さて、在日朝鮮族はいつ頃日本に来たのであろうか?最初の渡来の正確な年は分からないが、1980年代中頃に中国の教員の海外研修が認められて、その中に延辺大学の中国朝鮮族教員が含まれていたと言われている。それ以前は海外へ出ることが禁止されていたと言うから彼らが最初ではないかと推測される。90年代の初頭には留学生入学規制が緩和され大卒者、高卒者の留学生に門戸が開かれた。さらにその頃には日本のIT関連企業が中国東北地方で朝鮮族のIT技術者を中心にスカウトし日本企業就職機会も拡大された。その後、留学生や日本語研修生が卒業後、起業または日本の企業に就業したり、IT業種を中心とした技術者の渡来も増えて、現在では家族まで含めて6~7万人に達し、特に首都圏には4~5万人が在住していると言われるが、正確な人数は把握されていない。
それでも中国から海外に出国する朝鮮族の国際比較からすると大した規模ではない。2010年延辺州公安局出入国管理処の発表によれば、03年から延辺住民が毎年出国する国は50カ国余りで、最も多く出国した年には95カ国に達したと言う。その内、韓国を訪問する人が80%ほどで、ロシアには5~7%、日本が5%、北朝鮮が4%程度で近隣諸国への出国が殆どである。
では彼らの民族性はどのようなものであろうか。僅か6~7万の民族の性格を正確に語るには困難が多いが、一般的特徴は次のようなものである。
先ず第一は多言語優位性である。彼らの多くは、中国語、韓国語、日本語に長けており、東アジアにおいて、これほど民族単位で言語優位性を持つのは中国朝鮮族だけである。50代から30代中頃の在日朝鮮族一世たちの多くは故国において日本語の下地がある者も多く、日本での日本語習得が他民族に比べて極めて速く、日本語教育の必要のないほどの言語能力を持つ者も少なくない。また最近では、故国における活発な英語教育の成果もあって、中韓日語に加えて英語の堪能なものも増えつつある。こうした言語優位性は就業時に優位性を発揮しており、わざわざ在日朝鮮族を指定する日本企業もあるほどだ。
彼らの特性の第二は、個人ネットワークと集団形成力である。彼らは個人的ネットワークを駆使した集団化、組織化に優れた民族である。それは元々朝鮮半島と言う郷里を離れた歴史が長く、中国内でも少数民族が生きてゆくため、同族コミュニティを作り上げてきた。近年海外に進出するようになってもその方法は変わらない。日本においても、延辺大学出身者による延辺大学校友会、民族誰もが参加できる天池協会、企業人を対象にした千葉OKTA(世界海外韓人貿易協会、本部韓国、日本支部の一つ)、学者・研究者・大学院生による朝鮮族研究学会、東北亜青年連誼会など6チームを含む朝鮮族サッカー協会、主婦による朝鮮族女性会、朝鮮族のインターネットサイトとして有名なSHIMTO、その他業界、学生等の小規模組織・ネットワーク化された集合体がある。
その背景にあるのは強い同族意識を持つ個人的ネットワークである。起業したものが社員を募集する場合、能力を求める不特定多数よりは同族を募集することが多い。それは日本で就業の難しい同族に就業機会を与えるとともに、民族を収斂・組織化する効果を持ち、7万の会員数を持つSHIMTOなどを活用して応募する場合も多い。
今年7月31日、8月1日に、千葉OKTAが次世代貿易スクールを開催した。50名を超える次世代在日朝鮮族が集い、4つのビジネス講義、受講生によるビジネスモデル発表、民族舞踊紹介などで盛会であった。こうした成果も当初は、力の強いリーダーが率いる形で行われたが、組織・方法の成熟から全員参加型の機能的運営が定着してきた。
規模の小さい民族が精いっぱい能力・技能を発揮しているのが在日朝鮮族である。世代が進むと彼らは東アジアの懸け橋になるに違いない。