リーマンショック以降、速い回復力を見せる韓国経済。今後、景気回復をより確かなものとするために景気刺激策を維持する一方で、新産業の育成、少子化対策、安定した雇用環境の創出などを打ち出している。躍進を続ける韓国経済について、日本総研の向山英彦・上席主任研究員に分析していただく。
グローバル化の進展に伴い、韓国の地域経済にも変化が生じている。京畿道と忠清南道などソウル特別市周辺の経済力が相対的に高まる一方、ソウル特別市を除くと、全羅南道、蔚山広域市、釜山広域市などの経済力が相対的に低下傾向にある。
2002年と08年における各行政区域の地域総生産の全体に占める割合を算出すると、2時点間の上昇幅上位3地域は、①京畿道の2・7ポイント(17・6%から20・3%)、②忠清南道の1・8ポイント(4・4%から6・2%)、③慶尚北道の0・4ポイント(6・6%から7・0%)であり(図参照)、伸び率では忠清南道が最高となった。京畿道のウエートが著しく増大した要因の第1は、ソウル特別市からの工場移転である。
第2は、80年代末に開始された「新都市」(ソウルへの人口集中を緩和する目的で作られた都市)の建設に伴う人口流入と商業の発展である。これによりソウル特別市は90年代に入り人口が減少に転じたが、京畿道では現在まで増加基調が続いている。09年の人口の純移動をみると、京畿道(9万4000人)、忠清南道(1万2000人)、慶尚南道(1万1000人)では転入者が転出者を上回り、ソウル特別市(▲5万2000人)、釜山広域市(▲3万人)、大邱広域市(▲1万3000人)などは転出者が転入者を上回った。
第3は、IT関連機器産業の集積である。IT関連機器企業の約4割が京畿道に集中しており、同地域の製造業全体に占めるIT関連機器企業数の割合は全国平均の2倍となっている。LGディスプレーは第7世代以降、それまでの亀尾市(慶尚北道)に代わり、坡州市に設立した工場で生産を開始している。これを受けて、中小の部品メーカーが進出し、同市に液晶ディスプレークラスターが形成されたほか、平澤市には日系を含む外資系企業が相次いで進出した。
00年代における製造業生産動向をみると、IT関連機器と輸送機械の生産が製造業平均の伸び率を大幅に上回っており、このことが京畿道の成長を牽引したと考えられる。
他方、忠清南道における生産が著しく伸びた要因には、①首都圏(ソウル特別市、仁川広域市、京畿道)での工場立地規制に伴う工場進出、②自動車の生産(牙山市に現代自動車の工場)拡大、③最近におけるIT関連機器産業の成長である。サムスングループは液晶パネルの生産を第3世代以降、それまでの器興区(京畿道)から天安市に移し、第7世代からは天安市の近くの湯井市で生産を開始している。液晶パネルの生産開始に伴い、同パネル用のガラス基板も天安市で生産されるようになった。
忠清南道で最近注目されたのが、行政都市として建設が計画されていた「世宗市」(燕岐郡および公州市が中心)をめぐる動きである。ソウルに代わる新首都を建設する計画は、04年10月に憲法裁判所が首都移転は違憲であるとの判決によって頓挫した。李明博大統領は10年1月、世宗市への首都機能移転計画を白紙撤回し、代わりに大企業や大学・研究機関を誘致して「教育科学経済都市」を建設することを正式に発表した。この計画には先端グリーン産業地区の建設も含まれており、サムスングループが太陽光発電、燃料電池、発光ダイオードなどの生産を計画していた。しかし、6月29日、政府の「教育科学経済都市」案が国会に否決されたため、投資計画は白紙化された。
地域間の経済格差が広がるなかで、李明博政権は新しい地域発展政策を推進し始めた。地域政策の単位を従来の「16の市・道」から5つの広域経済圏(首都圏、忠清圏、湖南圏、大慶圏、東南圏)と2つの「超広域経済圏」(江原圏、済州圏)に変更して、各地域のイニシアティブ(各広域経済圏発展委員会別にビジョンを策定)にもとづき経済の活性化を図る方針である。「超広域開発圏」では中国やロシア、日本などの周辺国との連携を通じた発展をめざしている。従来の政府主導による地域開発ではなく、地域主体の開発政策によって遅れた地域の経済を活性化できるのかどうか、今後の展開が注目されよう。