近年、液晶パネルやDRAMなどの半導体、携帯電話などのデジタル家電といった分野で世界シェアを急拡大している韓国。躍進する韓国産業界のトレンドや展望などについて、業界事情に詳しいディスプレイの専門リサーチ会社、ディスプレイバンク日本事務所代表の金桂煥氏に分析していただく。
今年上半期の韓国の対日輸出は128億3400万㌦、輸入は309億600万㌦を記録。輸出入の差を算出した貿易収支は180億7200万㌦の赤字となった。半期ベースで史上最大の赤字規模だ。このように対日貿易赤字が増えたのは、輸出が増加するほど輸出品の製造に必要な日本製の機械や部品・素材の輸入も増える貿易構造のためだ。部品・素材の分野だけをみると、韓国は今年上半期に1095億㌦を輸出し、372億㌦の貿易黒字を上げている。しかし、対日貿易では部品・素材が120億㌦の赤字を出し、全体の対日貿易赤字の67%を占めてしまう。
日本の設備を使用し、日本製の素材を加工して完成品にすることは、過去に限った話ではない。相変らず日本製設備の性能は優秀で、いわゆる量産コストの競争力を提供する。日本で作られる部品・素材については先端素材から消耗性部品に至るまで特性及び信頼性が非常に高く、完成品の水準も高められる。具体的な事例を挙げると、韓国にもSKCやコーロンのようなメーカーがPETフィルムを作っているが、世界最高の液晶表示装置メーカーであるサムスンとLGディスプレーで使用されている光学用PETフィルムの大多数は日本の三菱化学やテイジンから輸入している。フィルムの加工に使用される設備も、ULVACや東京エレクトロンのような日本企業の製品が多数利用されている。そのため対日貿易赤字に対する話しが出る度、設備及び部品・素材産業の国産化が重要な解決策として提示されてきた。だが、単純に国産化で輸入代替を推進するだけでは解決しない。
まず、技術的進入障壁が非常に高く、国内で該当技術を自主開発して量産するのは多くの時間と投資を要するためだ。いまも韓国の研究所では多くの研究者が必死に努力しているかも知れないが、決して結果が数年で表れる分野ではない。日本の工業の歴史は100年を超える。数多くの試行錯誤と経験を通じて蓄積した技術とノウハウは、一気に追い着くことはできない。韓国の技術力は先進国に比べ総合的に87%水準であり、特に核心素材技術では先進国と4~7年の技術格差があるという評価は相変らずだ。
最近、知識経済部が提示した新たな部品・素材産業育成戦略には、いままでの単に国内技術に依存する国産化を止め、世界的な視点で部品・素材産業の育成を模索していることが見受けられる。積極的な投資を引き出すためには、まず研究開発の成果で作られた製品が世界的規模の市場を目標としなければならない。単に輸入代替効果だけを考えるならば、国内市場は余りに小さいかも知れない。次に、研究開発に動員される専門人材をグローバル領域に調達する。それも複数の研究主体を選定し、競争させ開発する。そして、部品・素材会社が革新を繰り返せるよう支援する。このような一連の新しい政策の結果として、グローバル技術企業の韓国投資を引き出している。韓国の部品・素材は日本にも輸入され始めたが、まだ同部門は120億㌦の赤字だ。急ぐ問題ではない。少なくとも今後10年間を見据え、部品・素材産業の育成、支援を怠らないことが望まれる。
少し前に日本のPETフィルムメーカーを訪問し、LCDテレビの主要部品であるBLU(バックライトユニット)に入る反射シートの市場動向について話し合った。この会社は同分野で全世界シェアの65%を占め、他の日本のPETフィルムメーカーと韓国のSKCを合わせた3社が95%を供給していると話した。サムスンとLGディスプレーは全世界で生産されるLCDパネルの50%を供給しているが、これに使用される反射シート(テレビ用)の絶対数が日本製品ということだ。幸いにもSKCという韓国メーカーが若干とはいえ含まれたことに救いがある。
過去数年間、SKCは光学用及び太陽電池用として使用される高付加価値フィルムの開発と量産に積極的な投資を行っている。韓国では簡単に作れないといわれるタッチパネル用ITOフィルムや太陽電池のバックシートなどを生産しており、需要拡大を受けて持続的に増産している。すでに言及した反射シート分野でも、占有率はますます増えるだろう。長い間続けてきたSKCの研究開発及び新規投資が成果を上げているのである。ある日、突然ということではない。2年ほど前に羽田空港の待合室でノートパソコンを開きながら思い悩んでいる出張者を見たが、そのパソコンにはSKCというステッカーが貼られていた。その人の出張成果を知る術はないが、真摯に模索して悩む姿はなかなか忘れ難い。
日本の多くの部品・素材企業は韓国に投資して現地生産工場を作る場合、最も憂慮する点として技術流出を挙げる。韓国の数多くの技術企業が日本の技術を学んで競争者に成長したという日本企業の認識は、必ずしも偏見ではないだろう。しかし、いつまでも独占できる技術というのは多くない。技術は市場の要求に基づいて改善・革新し、代替される。むしろ、このような革新と代替について共に悩みながら研究できる環境は、競争力があるといえないだろうか。共に生きていく共生の道こそ、新しい韓日関係の道しるべである。韓国の部品・素材産業は日本企業との提携と連帯を切望している。