近年、液晶パネルやDRAMなどの半導体、携帯電話などのデジタル家電といった分野で世界シェアを急拡大している韓国。躍進する韓国産業界のトレンドや展望などについて、業界事情に詳しいディスプレイの専門リサーチ会社、ディスプレイバンク日本事務所代表の金桂煥氏に分析していただく。
ディスプレー産業は半導体に続いて韓国経済を持続的に成長させた産業分野だ。サムスンとLGの2社を全世界に認知させた産業でもある。ノートブックやモニター、テレビに使用されるLCDテレビについては、全世界販売台数の30%以上を販売している。半面、その素材や製造設備に関しては対日依存度が非常に高い。この点では、韓国の半導体産業も大きく変わらない。韓国の誇る半導体とディスプレー産業は、相当部分で日本の素材、装置産業の影響を受けているのかも知れない。
一つの産業が一国で完結的な独自性を持つためには、いわゆる上流から下流に到達する全分野にかけて独自の研究開発能力と生産技術を備えなければならない。生産効率のために生産拠点を海外に置く事、技術を持たないために海外に依存する事は全く違う話だ。韓国の半導体もしくはディスプレー産業をみると、上流産業すなわち素材、部品、設備の独自性は依然として不足している。これら産業の発展及び韓国の経済成長への寄与を持続させるには、素材・部品と設備産業で独自性を確保するための努力が不可欠だ。
最近、韓国政府は次世代ディスプレー産業育成のために幾つかの方案を提示した。特に、中国で8世代LCDパネルの生産が本格化する2012年以降、韓国のディスプレー産業が選択すべき方向について提言している。大枠は2種類。一つは11世代以上の次世代LCDパネル生産、もう一つは有機EL(エレクトロルミネッセンス)の大型化及び量産だ。中国が8世代ラインによって中国内需市場のみならず13年から世界市場にも輸出できるほどの生産力量を持つようになれば、競争の激化と共に韓国のLCD産業は大きな打撃を受ける可能性もある。急ぐ必要はないが、次世代への前進を冷静に模索しなければならない。LCDの次世代ライン(11世代)だけでなく大型(8世代)有機ELパネルの量産にも投資し、付加価値の高いディスプレー産業構造にすることが必要となる。
今回の育成方案では、素材及び設備産業に関しても言及している。その目標は素材と設備の単純な国産化にとどまらず、東北アジアの次世代ディスプレー産業における韓国の役割を先端素材及び装備の供給地と規定し、従来の分業体制を再編していくと明示。そのためにパネルと設備企業が共同で参加する「次世代LCD設備、素材開発協議会」を今年6月に構成、運営している。また、11世代LCD及び8世代有機ELパネルを生産するための国産装備・素材の需要連係型開発が、今後5カ年(2011~16年)に推進される。
政府はこのような方向設定のほかに、各企業の投資と研究開発に対する税金控除、人材養成の支援など具体的な支援方案を用意している。政府の計画通りにプログラムと投資が進行すれば、15年頃にはディスプレー設備と部品素材の国産化率は70%に高まり、急成長している中国LCD市場に対する設備及び素材の供給という新しい事業モデルが展開されるだろう。
しかし、現在の韓国のLCD設備産業は脆弱な技術力に加え、企業規模が零細だ。短期間で技術力を向上させ、投資可能な企業規模にすることは容易でない。LCD製造工程の検査、洗浄のような後工程設備は80%を超える国産化率で、輸出競争力もある。だが、露光やエッチング装置のような核心の前工程設備は、国産化率が20%に過ぎない。核心装備を国産化するには、まず水平的かつオープンな装備開発、調達環境が整わなければならない。政府が中小企業と大企業の共生を強調するのも、このような脈絡といえる。
韓国のディスプレー産業が直面した装備の先進化と国産化は、産・官・学の連係で絶えず進行するだろう。需要企業にも、世界最高のパネル会社が並ぶ。需要連係型の装備開発を奨励する政府方針のもと、より効果的かつ広範囲な領域で国産設備を生産するようになることが考えられる。ディスプレーのほか、半導体、LED、太陽電池関連設備の国産化も進展するだろう。
一方、半導体とディスプレー製造設備の最大生産国である日本は、国内の新規投資がない限り中国のLCD装備市場に懸けている。また、韓国の11世代への投資も待っている。
韓国の設備産業が越えるべき山は、日本という高い技術と豊富な経験を持った山だ。多くの資本と人材を投入しても、その山を一度に越えることはないだろう。
LCD装備の話ではないが、最近韓国のLED設備メーカーと共に日本の設備メーカーと会合した。LED製造工程も段階が複雑で多いため、相互開発した設備を共同で営業する方案について議論した。韓国で安価に作れる設備に対しては、日本のメーカーが自社設備と一緒に販売。また、韓国メーカーは日本の設備を韓国でも生産し、自社設備と一緒に販売するという議論だ。まだ結論は出ていないが、両国設備メーカーの長・短所の共有によって相互に新しい市場を提供できるという魅力的な提案だったことには違いない。日本の設備業界は韓国の設備国産化の努力に対して警戒するだけでなく、むしろ新しいビジネスチャンスをそこで発見できるよう願っている。