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2010/10/01

<オピニオン>韓国経済講座 第121回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員。

◆輸入剤国産化の更なる向上を◆

 内外研究機関から2011年度の経済成長率予測値が次々発表されている。サムスン経済研究所は3・8%と予測し、LG経済研究所は4・0%、現代経済研究所4・3%と推計した。外国機関のS&P(スタンダード・アンド・プアーズ)とIMFは4・5%、BOA(バンク・オブ・アメリカ)に買収されたBOAメリルリンチ、そしてゴールドマンサックスは4・6%だ。10年は5%後半を維持すると予測されるが(S&P5・7%、現代経済研究所5・9%)、来年は1%程度の低下が見込まれるものの依然回復の勢いは維持されるとみられる。上の予測値は、こうした傾向を、国内機関よりも海外機関のほうが支持している格好だ。

 OECD諸国が08年秋のグローバル金融危機から低迷するなか、韓国は回復が早いと言われる。掲げた図は、近年の四半期ごとのGDPの対前年度比増減率の推移と最終需要における主要支出項目別のGDP寄与度を、対前年比で示してある。実質GDPの増減率は、08年第1四半期をピークに徐々に減少し、同年第3四半期を期に下落し、09年第1四半期にはマイナス4・3%まで落ち込んだものの翌期には早くも下落率が減少し第3四半期には前年同期に比べプラス0・3%と回復し、10年第1四半期には8・1%、第2四半期も7・2%と回復力を強めている。四半期毎GDP総額も金融危機以前の最高額であった08年第2四半期の247兆6790億ウォンから09年第3四半期には250兆2719億ウォンと絶対額で上回り、10年第2四半期には259兆6883億ウォンと危機前の最高額(08年第2四半期)よりも12兆ウォン増加しGDP規模も回復した。

 実質GDPの増減率に与えた影響を示す「寄与度」を見ると、内需全体のマイナスが大きかったことが景気後退の主な要因といえる。輸出から輸入を差し引いた外需は、景気の底(09年第1四半期)ではマイナス3・7%で国内経済の減速を輸出が支えた。しかし、内需の項目内容でみると民間消費や設備投資の寄与度は外需寄与度よりも良好な値を示しており、特に民間消費寄与度の落ち込みは比較的軽微なもので、民間消費が下支え要因となっていたことが分かる。09年第2四半期以降の回復過程では第3四半期に外需と民間消費の寄与度が対前年比でプラスに回復し、09年第4四半期には内需が主導する回復過程へと移行している。韓国の景気回復過程は外需主導から内需主導へと繋がったのだ。

 外需を支えた要因は、成長拡大を続ける新興国市場への輸出増大である。09年度の市場シェアでは67・3%を占め、対先進国市場規模を凌いでいる。この間、対中市場比率は同年23・9%、対ASEAN市場比率は11・3%とアジア市場比率が高い。また、この間ウォン安に推移していたことも外需主導を支える要因となった。だが懸念される点もある。一つは雇用創出が伴っていないことである。大韓商工会議所の調査によると、上位1000社の雇用と売上高の増加率を比較した結果、売上げの増加幅を雇用の増加幅が大きく下回わったことが指摘された。02~06年には対象企業群の売上高の伸び率が27・7%雇用増加率は9・3%だったが、05~09年では売上高57・1%、雇用6・4%と雇用なき回復過程であったことが分かる。

 次は、急速な為替変動である。特に近年の円の独歩高は、韓国輸出増加要因として作用する反面、輸入誘発的輸出を助長し、部品と素材比率が59・7%(10年1~7月)に達する対日輸入を誘発しており、10年上半期の対日貿易赤字は既に180億7000万㌦と史上最高額を記録している。韓国の回復過程は来年も持続されると予想されるが、ウォン安による価格競争力だけでなく、品質競争力、輸入財国産化もさらに向上させなければならない。


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