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2010/12/10

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ⑪韓半島の平和と韓国の産業                                                 ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

◆周辺国企業にも莫大な影響◆

 11月23日の午後、韓国から飛び込んできたニュースで、休日だが職場へと向かった。北朝鮮軍の延坪(ヨンピョン)島砲撃で韓国の海兵隊員が死亡、韓国軍が応射したというニュースであった。ニュース分析を急ぎながら、韓半島に戦争が起こりうるかについて考えてみた。

 1997年の通貨危機を克服し、2008年の世界金融危機の渦中でも成長の速度を緩めなかった韓国経済にとって、戦争の危機または韓半島の緊張は何を意味するのか。経済危機を克服しつつあるにもかかわらず、韓半島の分断と南北の対立は、韓国の経済成長の限界を示しているのか。

 振り返ると、韓国経済の成長は韓半島の緊張緩和に対する絶え間ない努力の結果ともいえる。70年代の朴正熙・元大統領在任中には、歴史的な7・4南北共同宣言以降に輸出主導型産業国家としての基盤を固めた。80年代の軍事政権下でも86年のアジア競技大会、88年のソウル五輪で韓半島の平和を全世界にアピールしながら、高度成長の枠組みを構築。90年代初期はいわゆる「第1次北核危機」で、韓半島に緊張が走った。97年には通貨危機という国家不渡りの危機にも直面した。

 しかし、金大中・元大統領の就任後に南北首脳会談が実現、南北間の経済交流が活性化した。いわゆる太陽政策が始まり、韓半島に永久的平和が訪れるかも知れないという期待感を高めた。この期間に通貨危機の克服はもちろん、半導体産業、造船及び重工業、石油化学産業の黄金期を迎えた。IT(情報技術)産業に対する積極的育成とインターネットインフラの国家的構築を通じて、次世代技術産業の土台も構築。2000年代に入っても民主党政権は太陽政策を継承し、韓半島の平和に対して莫大な投資を続けた。

 この期間にLCDと半導体をはじめとする電子部品、テレビや携帯電話などの電子製品を世界で最も多く生産・販売した国は韓国だった。また、同期間には韓国経済の次世代成長動力として環境、バイオ、エネルギー関連産業に対する国家的共感が形成され、積極的な投資が行われた。

 上記の論理だけで説明すると、韓半島の平和あるいは和解ムードが存続する間、韓国経済の成長は目覚しい進展をみせている。与党の政策が変わったとはいえ、主力産業の継続的成長によって韓国経済は世界金融危機から最も早く抜け出した。サムスン電子は40年にわたる追撃の末、今年世界1位の電子メーカーとなった。世界の電子産業を主導してきた日本企業は、韓国企業の成功事例を徹底的に研究しなければ再起できないと声を高めている。

 その渦中に、韓半島で砲声が鳴り響いた。戦争の危機まで取り上げ、韓国の主力産業にどのような影響があるのかを分析する人が増えた。韓半島で戦争または緊張が高まる場合、韓国に投資した外国人は韓国企業の株式を全て安値にしてでも売却し、資金回収したのち韓国を離れようとするだろう。それにもかかわらず、今回の事態で韓国の株式市場が受けた衝撃は非常に微小だ。戦争が起きるとは、誰も考えないためだ。北朝鮮の権力継承と関連した忠誠イベントに過ぎないという情況分析のほかに、どのような力が戦争と緊張を抑制しているのかを考えてみた。

 まず、中国が韓半島の緊張と対決よりも平和を望んでいるという点だ。長期にわたって同盟関係にある北朝鮮の肩を持たなければならない中国にとって、南北の対決局面は望ましいものでない。中国の経済成長は著しいが、まだ解決すべき課題は多い。貧富の地域及び階層間格差、少数民族との葛藤を解決するために、中国内陸とりわけ西部地域に対する開発が本格化しなければならない。これには西側の資本と技術が必須だ。中国元の切上げ問題による摩擦が続いている状況で、韓半島情勢を巡って再び西側国家と葛藤を起こすのは適切でない。

 特に、中国は同国内での第8世代LCD工場に対する建設許可について、台湾や日本の企業でなくサムスンとLGだけを選んだ。世界最大のLCDパネルメーカーとなっている韓国企業をパートナーに選んだ状況で、韓半島の戦争の火種を抱えることはできないだろう。

 日本の立場でみると、韓半島での戦争または緊張が韓国企業の躍動的投資を萎縮、競争力を低下させるならば、競争関係にある日本企業にとっては有利な状況とも考えられる。しかし、日本国内で誰もそのように考える企業家はないだろう。中国との本格競争のための最上の代案である韓日FTA(自由貿易協定)を推進し、韓日間の技術と資本の協業構造を強固にすることが必要な時期に、韓半島の緊張は日本にとって何の役にも立たない。しかしながら、韓半島の永久的平和が定着するまでは、常に対決と緊張の影が存在している。 

 韓国経済の成長は韓半島の平和を渇望する全ての人、企業、国家の努力とともに遂げた事実を改めて確認したい。その努力を土台にして成長した韓国の代表企業は世界の注目を受けており、韓国企業の投資動向によって関連産業を営んでいる日本、中国、台湾の企業にも莫大な影響を与えている。成長を続ける韓国の企業、産業、経済のために、今後も平和のための努力を継続しなければならないだろう。


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