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2011/02/18

<オピニオン>転換期の韓国経済 第13回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第13回

◆輸出される経済発展経験◆

 近年、新興国の間で韓国の経済発展の経験を学ぼうとする機運が高まっている。その背景には、第二次大戦後に世界の最貧国の一つであった韓国が短期間に著しい経済発展を遂げたこと、途上国が現在直面している問題の解決にその経験を活用できることがある。新興国側の関心は経済開発計画から輸出産業の振興、農村開発など広範囲に及ぶ。

 韓国政府も2004年から「経済発展共有事業」(KSP:Knowledge Sharing Program)を開始し、自国の発展経験にもとづく知識、ノウハウを積極的に伝えている。基本的には新興国の要請にもとづき、経済発展に必要な解決策をコンサルティングするものである。問題解決に向けた知識の共有化は、新興国の制度設計能力の向上と人材育成に貢献する。こうしたコンサルティングが土台となって、ウズベキスタンではナボイ自由工業経済区の設立につながっている。

 新興国が関心を寄せている一つに、韓国の新都市開発と低所得層向けの住宅政策がある。というのは、多くの新興国が現在、急激な都市化に直面しているからである。

 高度成長期に韓国では都市化が急速に進んだ。全人口に占める都市人口の割合は60年の27・7%から85年に64・9%へ上昇し日本を上回った(図参照)。地方からの人口流入により、70年代初期のソウルでは住宅不足が深刻化し、線路の土手の斜面や山腹の傾斜地、河川流域にスラムができた。

 政府は不法占拠者をソウル周辺部に移住させる一方、中心部では再開発を進めて住宅供給を増やした。72年に「住宅建設促進法」を制定し、10年間に250万戸の住宅を建設する計画を発表した。一般向けの賃貸(5年後分譲)住宅を供給する事業者に対する低利融資と税制支援の措置が導入された。また低所得層向け住宅供給を促進するため、81年に国民住宅基金が設けられた。低所得層向けの小型住宅を建設する事業者への融資を行うほか、低所得層向けの低利融資も行った。

 80年代に入ると、大手建設業者によって大規模アパートが相次いで建設されたが、人口増加が続いたため、住宅不足の解消はさほど進まなかった。この状況を改善するために打ち出されたのが88年に発表された「住宅200万戸建設計画」であり、その中心が新都市の建設である。

 新都市の建設にみられた特徴としては次の4点がある。

 ①民間資本の積極的活用である。開発用地の買収は韓国土地開発公社(現在の韓国土地住宅公社)が行う一方、住宅の建設と分譲は主に民間企業が担った。また「土地先分譲方式」をとることにより、同公社は上水道、道路などのインフラ整備に必要な資金を民間から調達した。②土地の買収・収用の迅速な実施である。「宅地開発促進法」の制定により同公社に土地の強制収用が行える権限が付与された。③中所得層向けとともに低所得層向けの住宅建設である。低所得層向けのアパートは基本的に韓国住宅公社(現在の韓国土地住宅公社)と地方自治体によって建設され、その資金は韓国住宅基金により供給された。④公共事業による鉄道や高速道路の整備である。

 韓国はこうした経験を活かして、新興国の新都市開発に関与している。アルジェリアでは新都市建設の一部を韓国企業が受注している。事業は韓国土地住宅公社が主管し、国内の建設業者5社が共同で施工する。住宅のほか公園、学校、病院、文化・レジャー施設なども建設する計画であり、新都市周辺の鉄道、高速道路、上下水道などのインフラはアルジェリア政府が整備する。

 また韓国は近年、新興国の経済発展に必要な制度設計に積極的に関わっている。ラオスとカンボジアでは、韓国政府支援の下で証券取引所が設立されている。ラオスの場合、証券取引所は同国の中央銀行と韓国取引所による共同運営で、証券市場の制度設計、売買システムの整備、人材育成などを韓国が担っている。資本市場の整備により経済が一段と発展すれば、韓国企業のビジネスチャンスの拡大にもつながる。

 韓国企業のグローバル展開とともに、韓国政府の新興国への積極的な関与に注目したい。


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