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2011/03/18

<オピニオン>転換期の韓国経済 第14回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第14回

◆官民の新興国への取り組み◆

 近年、日本では「韓国企業を見習え」という言葉をよく耳にした。その背景には、韓国企業が新興市場を積極的に開拓し、世界的にシェアを上昇させたことがある。

 他方、新興国の間でも韓国の発展経験を学ぼうとする機運が高まっていることは前回指摘した。なぜ韓国なのだろうか。その理由には以下の3点が考えられる。

 第1は、第二次大戦後に世界の最貧国の一つであった同国がめざましい経済発展を遂げたことである。その発展は順調に進んだわけではない。

 南北分断と朝鮮戦争(1950~53)後に残されたのは過剰人口を抱えた貧しい農村地域であり、工業基盤は極めて貧弱であった。

 こうした恵まれない初期条件は多くの新興国に共通し、とくに植民地支配や内戦など似たような経験をした新興国にとっては、韓国がいかに経済発展を遂げたのかは関心のあるところである。

 第2は、新興国が現在直面している問題の解決に韓国の発展経験が参考になることである。新興国では急速な都市化に伴い、「都市貧困」が深刻化している。

 失業やインフォーマル労働、住宅不足、不安定な居住条件、電気・水道などのインフラ不足、劣悪な衛生環境などである。これらは程度の差こそあれ、いずれも韓国がかつて経験したものである。

 第3は、韓国が「成功」経験とともに、通貨危機に見舞われたという「失敗」の経験も有することである。通貨危機に至った要因とその後の経済改革を知ることは、グローバル経済に急速に組み込まれ始めた新興国にとって極めて有益である。

 韓国政府も04 年から「経済発展経験共有事業」(Knowledge Sharing Program)を開始し、自国の発展経験にもとづく知識、ノウハウを新興国に積極的に伝えている。基本的には新興国の要請にもとづき、自国の発展経験に照らしながら、現在直面する問題の解決策をコンサルティングするものである。その過程における知識の共有化は、新興国の制度設計能力の向上と人材育成に貢献する。

 04年から09年までに15カ国を対象に134の課題を支援し(表参照)、事業予算も開始当初の5倍以上となった。分野は、①経済発展戦略、②工業化と輸出振興、③知識基盤経済、④経済危機管理、⑤人的資源開発などである。

 10年には、韓国の発展経験をまとめる「発展経験モジュール化事業」を始めた。これには通貨危機克服のような教訓も含まれている。

 韓国政府は先進国と新興国との「架け橋」としての役割を担うべく、今後同事業を拡大させていく方針である。10年9月にソウルで開催された韓国・アフリカ経済協力会議では、アフリカの実情に合う「経済発展経験共有事業」を12年までに12カ国以上に広げること、インフラ事業支援のために輸出信用と対外経済協力基金を組み合わせて供与すること、各国の農業・農村開発マスタープランの作成を支援することなどが表明された。農村開発では、「セマウル運動」の経験の共有がめざされている。

 韓国では発展に取り残された農村の所得増大と生活環境の改善を目的に、灌漑や道路などのインフラ整備、高収量品種・ビニールハウス栽培の普及、住環境の改善などが70年代に「セマウル運動」として展開された。

 また、同上会議では、アフリカに進出する韓国企業のリスクを低下させる目的で、輸出金融及び輸出保険の拡大も打ち出された。このように韓国政府が新興国への支援を積極化する背景には、そのことが韓国企業のグローバル展開にプラスに作用することもある。

 韓国企業は00年代に入りグローバル化を加速してきた。とくに新興市場の開拓を積極化してきた。輸出構成をみると、90年以降、先進国向けの依存度が低下し、アジアを中心とした新興国向けの依存度が上昇している。アフリカ向けの輸出も伸びている。

 対外直接投資は中国と米国が主要投資先であるが、近年では旧東欧諸国、ブラジル、ベトナム、インドネシアなどへの投資も増加している。

 政府の新興国支援と韓国企業による積極的な市場開拓の動きに今後も注目したい。


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