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2011/09/23

<オピニオン>転換期の韓国経済 第20回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第20回

◆変化の兆しみえる日韓経済◆

 日韓経済関係は長い間、韓国側の慢性的な貿易赤字に特徴づけられていた。その主因は基幹部品や高機能素材、製造装置の多くを日本からの輸入に依存しているためである。しかし最近、これまでにない動きがみられる。

 まず、韓国の対日輸出額(ドル建て、通関ベース)が高い伸びを続けていることである。韓国側の統計によれば、2011年1~7月までの対日輸出額は前年同期比46・6%増となった。10年は、世界金融危機の影響で落ち込んだ前年の反動によるところが大きいが、最近の増加要因には以下の点が指摘できる。一つは、東日本大震災後の日本企業による韓国からの調達増加である。日本で品薄になった石油製品、ミネラルウォーター、即席麺、乾電池などのほか、自社の工場被災やサプライチェーンの寸断などを理由に、部品や機械、原材料を調達する動きも広がった。低価格に加えて品質の良さなどから、その後継続的な取引に発展している例もみられる。

 もう一つは、日本の消費者による韓国製品購入の拡大である。その代表例がスマートフォンである。今年1~7月に韓国からの輸入額が前年同期比43・4%増(財務省統計)となるなかで、通信機は同77・8%増(7月単月では171・4%増)となった。有機ELの採用による画像の美しさやアプリケーションの充実に加えて、最近のK―POP(韓国大衆音楽)の流行も販売増加の一因といえる。

 輸出が増加する一方、対日輸入額はサプライチェーン寸断の影響により鈍化したため、今年1~7月の韓国の対日貿易赤字は前年同期比で17・7%減少した。

 つぎに、近年停滞していた日本の対韓投資に活発化の兆しがみられることである。11年上期(暫定値)の日本の対韓直接投資額(国際収支ベース、ネット)は前年同期比197・8%増となった。とくに最近では、韓国政府が望む高機能素材や研究開発分野での投資が進んでいるのが注目されよう。

 現在、日本企業が韓国に投資するメリットには次の4点がある。

 第1は、グローバル展開する韓国企業への供給である。サムスン電子や現代自動車などに代表される韓国企業は2000年代に入り、輸出や現地生産などを通じてグローバル展開を加速させた。日本企業はその製造に必要な部品や原材料、製造装置を供給しているが、近年韓国での生産を拡大している。これには、ユーザーとの共同開発や円高の影響を回避する狙いもある。

 第2は、FTA(自由貿易協定)効果の活用である。11年7月1日に発効したEU(欧州連合)とのFTAに続き、米国とのFTAが発効すれば、韓国は本格的なFTAの時代を迎える。韓国がアジアにおけるFTAのハブとなれば、輸出生産拠点としての魅力が高まる。ウォンが円に対して弱含んでいること、法人税の実効税率や電気料金が日本よりも低いことも魅力である。

 第3に、現地の消費需要の取り込みである。日本企業は需要の拡大する新興市場への取り組みを強化しているが、その動きは韓国でもみられる。例えば、ユニクロの店舗はソウルでは明洞、江南、ソウル駅周辺などのほかに、学生の多い新村や弘益大学付近でも目にするようになった。日本の自動車メーカーも高級車だけではなく、コンパクトカーも積極的に販売している。

 第4に、リスク対策である。東日本大震災後、日本ではサプライチェーン寸断のほかに、電力不足が問題となった。電力不足対策の一環として、生産拠点の海外移転を検討する企業が増えている。この点に関して、韓国は他のアジア諸国よりも、地理的な近接さ、輸送・通信インフラの整備、技術力・人材、政治的安定性などで優位にある。

 震災後、日本企業は韓国の重要性を「再評価」したといっても過言ではない。韓国にとっては日本企業を誘致する絶好の機会である。両国政府には民間の経済活動が一層拡大するように、貿易・投資上の隘路を解消していくことが求められる。


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