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2011/12/16

<オピニオン>転換期の韓国経済 第23回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第23回

◆市場が変える日韓経済関係◆

 最近、日本の対韓直接投資に増加の兆しがみられる。財務省の統計(国際収支ベース、ネット)によれば、2011年1―9月期(速報値)の日本の対韓国直接投資額は前年同期比218・7%増(下図参照)、韓国知識経済部の統計(申告ベース)でも同37・6%増と、いずれも増加傾向にあることが示された。

 また、国際協力銀行が毎年実施している『わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告』によれば、11年の中期的(今後3年程度)な有望事業展開先として、韓国は前年の9位から11位へと順位を下げたものの、得票率は5・8%から6・1%へ上昇した。

 多くの企業が韓国での投資を計画ないし検討していることを考えると、日本の対韓直接投資額はしばらく増加基調で推移するものと予想される。

 対韓投資の増加は、韓国政府(地方自治体を含む)が日本企業の誘致を積極化してきた成果ともいえる。最近では、「部品・素材専用工業団地」を相次いで設置して、日本からの輸入が多い部品・素材分野をターゲットにした誘致を展開している。同工業団地に指定されたのは、亀尾(慶尚北道)、浦項(慶尚北道)、益山(全羅北道)、釜山・鎮海経済自由区域などである。これらの地域には、韓国を代表する大企業の工場が集積している。

 日本企業の誘致は対日貿易赤字の縮小を目的に従来から行われてきたが、これまで、政府は熱心に誘致しているにもかかわらず、日本企業はさほど関心を示さない状態が続いてきた。投資するメリットが十分になかったためである。しかし日韓を取り巻く経済環境がここにきて著しく変化し、そのメリットを企業が見出してきたといえる。

 一つは、日本企業の納入先として韓国企業の存在が大きくなったことである。

 韓国企業は2000年代に入って以降、輸出や現地生産などを通じてグローバルなビジネス展開を加速させた。日本企業はサプライヤーとして、その生産に欠かせない基幹部品や高機能素材、製造装置を供給してきたが、供給の拡大に伴い現地生産しても採算がとれるようになったほか、現地生産により、①納入先からの情報入手および納入先とのコミュニケーションが容易になる、③共同開発を進めやすくなる、③円高によるコスト上昇を回避できるなどの効果が得られる。

 グローバルでの競争が激しくなっているため、サプライヤーにとってもこれまで以上に、納期の短縮と生産コストの削減が求められている。韓国の輸送・通信インフラの整備、技術力の高さ、優秀な人材、法人税率の低さなども現地生産の動きを後押ししている。

 さらに、サムスン電子、LG電子、現代自動車などの躍進ぶりをみて、韓国企業への新規納入をめざす日本企業も出ている。韓国企業がグローバルな視点から調達先を選んでいることも、参入のチャンスとなっている。これらは、市場のダイナミズムが日韓関係を変える契機になっていることを示している。

 もう一つは、韓国政府がFTA(自由貿易協定)の締結を積極的に進めてきたことである。11年7月1日に暫定発効したEU(欧州連合)とのFTAに続き、米国とのFTAが12年1月に発効する見込みである。これにより、将来的には日本から輸出するよりも、韓国で生産し、「韓国製」(原産地基準のクリアが前提)として輸出した方がEUや米国市場へのアクセスが関税面で有利となる。これが対韓投資のもう一つのメリットである。

 また、韓米FTAの発効を見越して、日本の自動車メーカーのなかに、日本からの輸出以外に、米国工場で生産された自動車を「米国製」として韓国へ輸出していく計画があるのは興味深い。部品・素材分野で日本企業の対韓投資が増加すれば、韓国の産業高度化と対日貿易赤字の縮小につながることが期待される。その半面、国内製造業の空洞化に拍車をかける恐れがある。このため、国内における研究開発機能の強化、新製品開発、高度な生産財供給機能の維持に、日本はこれまで以上に力を入れる必要がある。


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