◆東アジアとの協業関係にも目を◆
今月2日、国会があるソウル・汝矣島を韓国出張した際に通った。警察車両と重武装の部隊が国会議事堂を完全に囲んでいる様子を見て、韓国は30年前と何ら変わっていないのかも知れないと考えた。この日の韓国国会では、韓米FTA(自由貿易協定)の批准同意案が上程されていた。そのために国会内の衝突はもちろん、国会前での韓米FTA反対デモが予想される状況だった。相反する利害関係にある集団が対話や妥協でなく、物理的衝突も辞さず主張を貫徹しようとしているのである。韓国の民主化社会は、前近代的といえる旧態をまだ清算できていないのかも知れない。
すでに米国議会は韓米FTAを批准したが、韓国議会は難航。この記事を復路便で読み、心中は複雑だった。韓国の産業または経済構造は、輸出を中心としている。世界最大市場である米国とのFTAによって輸出競争力を高めることは、選択でなく宿命であろう。だが、多くのものを犠牲にするという点で、韓米FTAの賛成または反対を決めることは簡単でない。乱気流で揺れる飛行機の中で、韓国産業構造の形態と成長の方向性について考えてみた。
筆者は大学在学中の1980年代に農村活動を行う過程で、当時の韓国政府が推進していたコメ開放を反対しなければならない理由について農民と話した。私はコメなどの食糧を輸入に頼る場合、国民の暮らしを外国に依存するようになること、農産物開放によって農民が破産してしまうことを非常に懸念し、コメ開放に反対した。
しかしながら、過去30年間に韓国は農産物の輸入品目を着実に増やしてきた。その結果、韓国の農業の生産力は急激に低下。すでに韓国において農業は存在感をなくしているのかも知れない。昨年の韓国の穀物自給率は26・7%に過ぎなかった。
一方、同期間に自動車、造船、電子部品などの輸出産業は飛躍的に成長し、世界市場で存在感を高めてきた。韓国経済の成長は、まさに輸出産業の成長といえるだろう。韓国の農業は経済成長の犠牲になったのかも知れない。
韓米FTAは2006年から調整を繰り返し、このたび確定した。だが、韓国は米国に譲歩し過ぎており、あまり得られるものはないという指摘もある。
実際に韓米FTAの名分は輸出拡大にあるにもかかわらず、自動車部門に対して米国議会と米国自動車業界は「韓国製自動車の対米輸出を抑制し、米国製自動車の対米輸出を増やせるようになった」と評価している。韓国の自動車メーカーは米国に直接投資する場合に大きな恩恵を受けるものの、関税撤廃までの期間が5年で長い。米国議会が韓米FTA批准案を通過させたのは、自国の利益が十分に確保されるからだろう。
韓国の自動車業界にとって、韓米FTAは部品産業の輸出を拡大させる効果がある。また、米国市場に対する不確実性が解消し、自動車も中長期的に競争力を得られると評価されている。
だが、韓米FTAによって直ちに被害を受ける農業やサービス業などの産業は、協定発効が被害の始まりとなる。そのために、政府は直接的被害に対する補償や競争力強化のための様々な支援方案を準備している。補償するから、国益のために譲歩してくれというのが、政府の基本的な考えだ。
補償や支援さえ行われれば、米国の安価な農産物や質の高い医療、教育、金融などのサービスと競争できるだろうか。韓国の農民と零細サービス業者はもちろん、競争力のない諸サービス業者は崖っぷちに追い込まれるだろう。韓米FTA反対の声は高く、激しい。その一方では韓米FTAの長期的かつ包括的利益を丁寧に説得しようとせず、一気に押し通すことに余念がない。
韓国の産業構造は70年代の輸出ドライブ政策以降、成長産業を中心に変化してきた。現在、経済成長の中心産業は輸出製造業だ。しかし、世界をみると、付加価値に対する考えが変化している。42型LCD(液晶表示装置)テレビがアイパッドと同等の価格であり、消費者は大きさでなくデザインと内容に価値を付与している。
韓国のドラマやキムチ、ビビンバをはじめとする文化商品が世界で人気だが、これを一つの産業として成長させたのは最近10年以内のことだ。韓国経済をさらに成長させる新産業を引き続き探し、注力する必要がある。
一国で必ず守るべき産業というのは、ないのかも知れない。ましてや政府が守れる産業というのは、事実上ない。自ら道を切り開かなければならないのである。韓国の農業とサービス業に対する競争力向上の方法を探す過程で、答が出てくると信じたい。
韓米FTA発効は、韓半島の安保問題や中国、日本との政治経済的環境にも変化をもたらすことがある。韓米FTAに対する国会批准は、国内産業間の利害関係を調整することが重要な争点となる。だが、経済成長を続けるためには、韓半島の平和と東アジア経済圏での競争および協業関係も忘れてはならないだろう。