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2011/03/11

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ⑭サムスンとリーダーシップと共生                                               ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

  • ハリー金の韓国産業ウォッチ⑭サムスンとリーダーシップと共生

    大型投資を推進するサムスン李健熙会長㊧。写真は昨年の半導体工場起工式

◆中小協力企業と共に成長を◆

 先週、サムスンの新事業発表があった。バイオシミラーのCMO(契約生産)工場を仁川(インチョン)市の松島(ソンド)に建設することを最終確定し、2020年までに製薬市場全体の22%以上を占めるバイオ製薬分野でも大規模投資と原価節減による市場競争力を確保するという。今後、サムスンは最大3兆ウォンをバイオシミラーに投資する。サムスンの同分野進出は国内の中小専門企業を萎縮させることもあるが、関連産業が飛躍的に成長する起爆剤となることを願う。

 昨年5月、サムスンは未来のための新事業に対する投資計画を発表した。太陽電池、電気自動車用電池、LED(発光ダイオード)、バイオ製薬、医療機器の5分野に対し、2020年まで23兆3000億ウォンを投資。これら5つの新産業で売上50兆ウォン、雇用創出4万5000人をめざすというものだ。

 そのうちのバイオ製薬に関する最初の事業としてCMO工場を今年に着工し、2013年から量産を開始。主として海外市場を目標にしている。サムスン電子はこの事業を土台にし、バイオシミラーを直接開発・量産するという計画を持っている。医療、医療機器、バイオ医薬事業の全てを備え、医療関連産業の融合化を推進するとのビジョンも提示した。

 二次電池事業では、すでに日本の競争会社を脅かすシェアを確保している。市場拡大が期待される電気自動車用電池については、2015年までに年産18万台へ強化する予定だ。

 太陽電池事業もサムスングループ内の役割分担を終え、垂直系列化を進行している。ポリシリコン生産では、インゴットとウエハー、電池とモジュール、太陽光発電所の建設と運営の全領域で一括システムを備えた。

 LEDテレビの市場進入に成功したLED事業は、照明事業に拡張。同分野も、垂直系列化が推進されている。

 このような新成長産業に対する果敢な投資は、今年初めに李健熙(イ・ゴニ)会長が述べた「10年以内にサムスンを代表する全ての商品が消えるだろう」という問題認識に端を発している。韓国式経営の最大の強みである強力なリーダーシップとビジョン経営を再確認できた。

 サムスンの韓国経済への寄与は言うまでもないが、サムスンに関連する数多くの中小企業について考えてみたい。サムスンの役割は個別企業の単なる利益と価値を超え、韓国経済の持続的かつ包括的な成長を図る真のリーダーである。

 最近、韓国政府は大企業と中小企業の「共生」を強調し、これについて具体的に評価・支援する政策を実施している。相対的に劣悪な環境にある中小企業は生き残りを大企業に委ね、不利益も甘んじなければならないイメージを持つ。依然として、大企業に対する不信感は高いと言える。

 共生が強調されるなか、サムスンやLGは韓国の中小企業の代表的事業である金型事業に進出した。広い敷地に金型センターを建設し、最先端設備の投資と専門人材スカウトを進行。該当工場地域の金型企業の反発は、非常に大きい。技術者は魅力的な勤務条件と大企業ブランドへ抜け出し、これまで外注されていた仕事は内部で行われるようになる。仕事が減れば、会社はたたまざるを得ない。

 建設した金型センターに専門中小企業を集め、先端装備の支援及び需要供給の疎通をより近くで進める方が、大企業の選択として賢明ではないだろうか?

 サムスンの新事業は多くの専門技術を必要とし、そのなかには中小企業が有望事業として育成してきた事業も含まれている。サムスンが韓国の代表的企業かつ韓国経済を支える柱である限り、中小協力企業とともに成長することも考慮しなければならないだろう。

 大企業が先端有望産業を成長させる。中小企業は成長を期待できない限界産業を一手に引き受け、持ち応えられない場合に崩れる。このような姿を韓国の産業界で見ないよう望む。


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