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2011/04/08

<オピニオン>素材・部品産業の地域分散化を                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。08年度より秋田県学術顧問併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から70回までの記事掲載中)

◆安全な社会システムの構築を◆

 日本を震撼させた3月11日のマグニチュード9・0東日本大震災は、多くの人命を奪った想像を絶する被害規模のみならず、原子力発電の事故とも相俟って世界の重大ニュースとなって地球を駆け巡った。

 当日は東京六本木のオフィス20階で執務にあたっていたが、これまでに経験したことの無い長周期の大きな横揺れに遭遇し言葉を失った。

 震災による被害が報道されるたびに甚大さを増しているが、4週間経過した現在でも全容がまだ明らかになっていない部分が残っている。

 そして産業界へ及ぼしている影響も図り知れず、自動車産業、エレクトロニクス産業、素材・部品産業と広範囲かつ深刻な影響が出ており、グローバルビジネスに大きなブレーキがかかってしまった。この状況を見ると、日本の基幹産業や基盤技術がいかに強く、グローバルビジネスに貢献しているのかが良く見える。特に素材分野では、被災した企業で高い世界シェアを有している製品が多い。三菱ガス化学の半導体パッケージ基盤材料と日立化成工業の液晶ディスプレー用回路接続フィルムは50~60%の世界シェアがあり、JX日鉱日石金属の液晶パネル向けターゲットは45%、信越化学工業の半導体用シリコンウエハーが約20%などである。サムスングループも様々な製品において日本からの素材調達が多い。

 一方、リチウムイオン電池分野では、活物質バインダーで世界市場の70%ものシェアを誇るクレハ、負極材料で40%のシェアを有す日立化成工業、同じく40%のシェアで電解銅箔を事業している古河電気工業など、電池素材分野でも世界をリードしていた。

 このような企業では設備の損壊、電力等のインフラ停止に伴う操業停止に追いやられ、復旧の見通しが付いていない企業も多い。日本のセット産業界がこうした素材や部材を手配できないだけではなく、海外企業に対しても同じような影響を及ぼしている。

 今回の震災を教訓に考えるべき点が3つある。ひとつはこのような素材・部材産業、およびセット製品産業の立地に関するものである。

 日本は地震列島であるからこそ、事業基地をリスク分散させることが必要になる。東西に長い日本の特徴を活用し、一局集中ではなく地域分散させる基地造りである。何も日本内だけではなく、韓国や中国、東南アジア、欧米など、グローバルな分散化も考えるべきである。というのもディスプレー産業、半導体産業、電池産業も今では韓国が世界をリードしている立場にある。そのような拠点に日本企業も積極的に進出し、一連托生となるパートナーシップの構築が求められている。幸い、韓国には活断層がないため地震もほとんどないとされている。地震災害を考えただけでも隣国の韓国を拠点のひとつとして協業するビジネスモデルは有効と考える。

 2つ目は、災害時の遠隔操作型ロボットの必要性である。原発事故では復旧作業にあたり、人体に有害な放射線被曝のリスクが作業を妨害しているが、緊急時に人命リスクを回避できる支援型ロボットである。現在は、2足歩行ロボットが世界的に開発されつつあるが、家庭用での用途よりも、むしろ災害救助、災害支援を目的にしたロボットの必要性を見直すタイミングではないか。快適な暮らしを享受するには、安全と安心を保証する社会システムの構築が重要である。

 3つ目の論点は、インフラ、特に電力確保の課題についてである。原子力発電に依存しないと電力確保がままならない日本にあって、安全性信頼性が世界トップレベルであったはずの原発神話が完全に崩れ去ってしまった。想定外を超える地震と津波の影響であったことに違いは無いが、今後は想定基準を大幅に見直すことが必要になる。

 耐震性、耐津波、立地条件を抜本から見直すとともに、原発への依存度に関してもこの震災を教訓に議論されるべきである。災害のリスクは国によって相当に異なることから、その国々の状況に応じた発電インフラを考えなければいけない。

 温室効果ガスである二酸化炭素排出抑制の観点で原発は優等生であるが、一旦事故が発生した時のタフネスと信頼性には課題がたくさん残っていることが明らかになった。

 再生可能エネルギー利用は最重要課題のひとつであるが、それだけではまかなえないのは明らかである。地球規模で豊富な天然ガスや石炭、水力をうまく活用し、一層クリーンで高効率な発電システムの開発加速が、原発依存型発電に対抗できる可能性がある。

 石炭火力発電では日本の技術が極めて高いと評価されているが、二酸化炭素低減に結びつく更なる高効率発電、そして天然ガス火力発電のみではなく、エネルギー効率の高い燃料電池発電についても再度注目する必要がありそうだ。


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