◆韓国のインフレは構造的?◆
韓国のインフレーションには複合的な要因が潜んでいる。2008年のリーマンショック以後、原油価格が上昇し、狂乱物価に見舞われたことは記憶に新しい。中東民主化に端を発した今回の原油価格上昇は、またまた韓国の物価を押し上げている。韓国銀行によると、3月の生産者物価は対前年同月比で7・3%上昇し、この比率は08年11月(7・8%)以来2年4カ月ぶりの高さであるという。当然この上昇が消費者物価に影響を及ぼすのは必至だ。しかし、似た状況の日本では石油価格関連物価は上昇しているもののインフレどころかデフレ状態だ(表参照)。
何故、韓国の物価が上昇するのだろうか?広く知られるようにインフレーションは様々な要因によってもたらされる。韓国経済は、基本的にインフレ同伴型発展であった。解放から60年代には物不足によるインフレが続き、70年代に入ると重化学工業化と輸出促進により国内市場への供給が伸びず、産業間成長格差が拡大し、生産性の低い産業の物価が上昇する構造インフレが続いた。さらに高度成長下において市中銀行が貸付や信用保証を増加させることで信用貨幣の供給量が増大し信用インフレも同伴した。また、80年代中盤からは三低景気により輸出が急速に拡大したため、企業が製品を輸出に振り向けたことにより、国内市場向けの供給量が結果的に減って、いわゆる輸出インフレが持続した。
97年の通貨危機以降の経済構造改革において、特に市場開放、規制緩和が進展したため、海外市場変動に大きく影響を受けるようになった。特に国際市場における価格変動がそのまま輸入価格に反映して輸入インフレが発生する度合いが高まった。08年初には世界的な異常気象による国際穀物価格上昇、BRICsなど人口大国の所得向上による食生活の変化による輸入価格の上昇、穀物・原油市場における国際投機資金による価格引き上げなどの要因が国内市場において、生産費用(賃金、原材料、燃料費)の高騰につながり、いわゆるコスト・プッシュ・インフレが消費者物価を押し上げた。
冒頭の韓国銀行発表は、リーマンショック後の狂乱物価の再来を思い起こさせる。現在の韓国は外から内へ次第にインフレ要因が浸透している状況である。表にみられるように、1年前に急上昇した輸入物価は下がることなく昨年12月に入ると上昇局面の第二段階に入りそのまま高騰し続けている。これを受けて生産者物価上昇率もじわじわと上がり始め、昨12月から上昇局面に入りコスト・プッシュ・インフレが進んでいることが分かる。消費者物価の上昇率は生産者物価のそれとほぼ同じ動きを見せているが、昨11月からは消費者物価の上昇が鈍く乖離してきている。とはいうものの11年1月から4%を超える状況が続いており、消費者には物価圧力を加えている。
こうしたインフレは、原油・穀物国際価格上昇、東日本大震災などによる部品、製品輸入梗塞など海外要因とともに、昨年来の鳥インフルエンザ、口蹄疫発生、さらには異常寒波による農産物価格上昇などの国内要因も深刻だ。口蹄疫被害は3月21日時点で、約6200農家の牛約15万頭(国内の5%)、豚約332万頭(同35%)の合計348万頭が殺処分された。インフレ要因が複合的であるためその対応も複雑にならざるを得ないが、基本は通貨流通量=マネーサプライ(M2+CD)の調整であり、4月13日に金融通貨委員会が政策金利を0・25%引き上げ、年2・75%と決め、金融引き締めで物価上昇を抑制する方針だ。しかし、表でも確認されるようにインフレ要因は次第に消費者へ向かっており、今後さらなる金利引き上げは避けられないであろう。