◆どうする、荒れる金融市場◆
再度の米国発金融衝撃にアジア市場も揺れた。米格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は5日、米国の長期国債格付けを最上級の「AAA」から、「AA+」に1段階引き下げたと発表した。これまで米国連邦債務が法律で決められた上限に達し、米議会は、14兆ドル(1100兆円)を超える巨額債務を抱え、与野党対立の財政再建をめぐる確執を2日までに何らかの打開策がとれなければ債務不履行に陥るため早期打開が求められていた。こうした切迫感を背景に、米国債の信用格付け引下げも予想されていた。
S&Pの米国債評価引き下げは、突然行われたわけではなく、4月18日に巨額の財政赤字と政府債務の増加を理由として、米国債の長期格付け見通しを初めて「安定的」から「弱含み」に引き下げていた。ただし、この時は、格付けは最上位の「AAA」で据置いていた。これが導火線となり、5日の格付け引き下げとなったのである。
この衝撃は、リーマンショックに端を発した世界金融危機と同じように、ボーダレスのグローバル金融システムの中で即日アジア市場を襲った。
格付け引き下げ前日5日のソウル市場では、KOSPI(韓国総合株価指数)が2日から4営業日連続で229ポイント下落し、東日本大震災直後の3月18日(1981・13)以来およそ5カ月ぶりに2000割れしていた。週明け8日午後1時30分KOSPIが過去最大の143・75ポイント下落した。
また、アジア市場では日本が2・18%、中国が3・79%、台湾が3・82%、香港が2・17%と一斉に下落した。
一方、対ドルのウォン相場は、下落する株を売った外国人のドル買い需要で、1㌦=1082・50ウォンのウォン安ドル高で取引を終え、6月28日以降初めて、1㌦=1080ウォン台までウォン安が進んだ。これに対して円は80円台であったものが76円台まで円高が進んだ。この傾向もリーマンショック後と全く同じ、円高ウォン安の構図で、こうした衝撃時ウォン安の構図は次の様に見ることができる。①韓国市場が比較的規模があり、流動性も豊富なため外資が流出入しやすい。②外国人投資家にとって、アジア市場はリスクがある資産投資対象に分類されているため、資金需要があれば優先的に資金を引き揚げる市場であり、そのため韓国市場でも外資流出は大きい。③ウォンはドルやユーロとは異なり、基軸通貨・世界的通貨でなく、円のように安定的な信用通貨でもないため、市場インパクトに弱く、投資家の不安や危機意識にすぐに反応し、為替変動の影響を受けやすい。④金融市場が最も開放されており、貿易依存度が10年には対GDP比87・9%、対GNI(国民総所得)比でも今年の第1四半期で112・8%まで高まっており、外需反応度は極めて高い。
こうした特徴を持つ韓国市場では、外資流出によるウォン安は、他方で、外貨不足をもたらす。この構図もこれまでの通貨・金融危機と同じだ。アジア通貨危機では外貨が枯渇しておりIMFの緊急融資を受け入れ、世界金融危機では2400億㌦の外貨準備を補強するため米日中とのスワップ協定により乗り切った。今次は7月末における外貨準備は3110億㌦と史上最高額を保有しており、以前のように外部に依存しないで済みそうだ。それでも現在の総外債規模が3819億㌦まで増えていることを考慮すると再び外貨危機に見舞われないとも限らない。また、今後の展開の中で外国人の投資資金が急激に離脱してドル相場が上昇すると、ウォン安による外債返済の負担も大きくなり、外貨調達にも差し支えが生じて、一時的に外貨受給不均衡が発生しかねないという懸念もある。
この状況に政府は、これまでの経験を踏まえ、外貨不足事態を想定し、転ばぬ先の杖を用意した。1日に「外国為替健全性負担金」制度がスタートした。これは、外貨資金流入経路別に対応するもので、すでに実施していた「先物為替ポジション限度」導入(10年10月)で銀行の過度な短期外貨借り入れの主要原因である先物為替買入規模を制限する。また、「外国人債券投資課税転換」制度で(11年1月)外国人の国債購入などの時の利子所得税の非課税廃止を実施した。負担金制度導入はこれに加えた措置だ。その概要は、銀行圏、外銀支店(37機関)及び金融圏に負債規模などを基に負担金を付加し、それを米ドルで回収し外国為替平衡基金に積み立てるものである。
政府はこの対策で資本流出入の変動性を緩和して、対外部門の衝撃に対する韓国経済の対応力をいっそう強化し、特に外国為替健全性負担金を通じて金融機関の過度な外貨借り入れとこれによる外債増加抑制、経営健全性向上、外債構造長期安定化などの効果が期待されるとしている。こう見ると、ATMコリアと称される外貨の一時預かり的な市場感を払拭するため、開放度の高い国内市場とウォンの非国際性に対して、アジア通貨危機以降その対策と外貨準備が強化されていることが分かる。さて今次の通貨対策のお手並みは?