◆開発力の再点検と強化を◆
薄型テレビの価格下落が続いている。今年第2四半期に米国で販売された42型液晶テレビの平均価格は約599ドルで、第1四半期より10%程度下落した。下落は続くだろう。
アップルのタブレットパソコン「アイパッド」には、499ドル―800ドルの様々な価格帯のモデルがある。このうち普及型の32G製品が、42型テレビの平均価格と同じ599㌦だった。このように価格が逆転し、「42型液晶テレビの屈辱」と題した記事が話題になった。42型液晶テレビは過去1年間に価格下落を続けたが、アイパッドは発売以来1年にわたって同じ価格を維持しているということだ。
画面の大きさでみると、42型テレビの材料費は9・7型のアイパッドの4倍以上だ。しかし、その価値が消費者に認められていない。アイパッドは携帯性とデザインに優れ、様々なサービスを利用することができる。そこに付加価値があると判断されているのである。大画面と鮮明な画質で付加価値を作る時代は、もう終わったのかも知れない。
ここ数年間の急速な薄型テレビ普及によって、韓国と日本の電子業界は好況を享受してきた。だが、昨年下半期から始まったテレビ市場の不況は、出口が見えない長いトンネルのようだ。日本のメーカーがテレビ事業の整理、撤収、再検討を進めているということが、連日のように報道されている。事実関係については今後も見守る必要があるが、テレビの製造が収益につながっていないことは明らかだ。韓国のサムスンとLGも、テレビ事業を収益性中心に変えているという。より安く製造できる方法ではなく、どのように作れば消費者に価値を認められるのかについて考えていると期待したい。
現在、世界のテレビの90%以上は液晶テレビだ。LCDテレビの原価の70%が、LCDパネルで占められる。韓国のLCD産業は、全世界生産台数の50%を生産している。このような構造から、テレビ市場の不況は韓国LCD産業及び関連産業に深刻な影響を与える。テレビ用液晶パネルの価格は下落し続けているが、底の時期を予測することが難しい。すでにキャッシュ・コストで価格を形成している製品も、非常に多い。製造するほど、損失が出ている。
一方、中国でテレビ用液晶パネル生産が本格化する来年から、液晶パネルは供給過剰になると懸念されていた。そのため、現市況について深刻に受け止められている。現在の需要不振を改善しないまま追加的な供給超過となった場合、価格はさらに下落し、競争は激しさを増す。業界内でチキンゲームが起きる可能性もある。世界1、2位のパネルメーカーを保有する韓国の液晶産業は、いま深刻な危機を迎えている。この危機は、供給過剰と競争激化という一時的不況をさすのではない。生産している製品の付加価値が下がり、取り返しがつかない事態になりつつある。
アップルのアイパッドは、単純な端末機ではない。ハードウエアに新しい価値(ソフトウエア)を融合させ、消費者に認められたスマート機器だ。アップルは、ハードウエアの直接生産を行っていない。日本と韓国から主要部品を購入した後、台湾と中国に組立て生産を委託する。アップルが保有しているのは、強力な技術特許、優秀なデザイン能力、そして市場を先導できるマーケティング能力だ。消費者に価値が認められるビジネスモデルを持ち、どの企業よりも高い営業利益率を上げている。
アップルの力はシャープの「世界の亀山」工場をアップル製品の専用ラインに変え、日本のパネル3社(ソニー、東芝、日立)を合併させることとなる。まるでアップルに部品を納品できなければ生き残れないような印象だ。サムスンLCDとLGディスプレイも、アップル専用のパネル(9・7インチ)を大量に生産している。アップル向けに高性能な新製品を開発し、アップルに採択されたことが技術競争力の根拠として提示されている。しかし、アップルの購買戦略は薄利多売である。アップルへの部品供給は大量に行われているものの、利益は多くないという意味だ。ソニーやサムスン電子など日本と韓国の電子業界が台湾企業のようにアップルの下請け会社に転落していくという表現は、極端だろうか。
サムスン電子のギャラクシータブは世界で人気を得ているが、アップルの特許で行き詰まっている様子だ。ドイツをはじめとする欧州地域で販売が禁止されるという。特許訴訟問題を解決したとしても、大きな問題がある。ギャラクシータブは、グーグルのアンドロイドをOSに採用している。そのグーグルがモトローラを買収した。アンドロイドが、いつグーグル・モトローラだけのものになるか分からない。やはりスマート機器時代の電子業界では、ソフトウエアの開発力量が必須という結論に達する。
ハードウエア技術を通じても、有機ELディスプレーのように新しい市場を作ることができる。しかし、韓国のIT(情報技術)産業は、ソフトウエア開発力量の再点検と強化に一層積極的な投資を行うべきではないだろうか。