◆コリアンウェーブは先が見えたか?◆
コリアンウェーブの勢いが止まらない。2000年代に入り、コリアンウェーブは文化輸出として世界市場に進出した。MBCの「朱蒙(チュモン)」は世界20カ国で放映され、「大長今(チャングムの誓い)」は60カ国で放映された。「朱蒙」はイランなどで爆発的人気を博し、そのことが韓国、韓国家電製品に対する親近感や好感度を高め、製造業輸出拡大に寄与している。「大長今」は韓国の食文化や医学といった伝統的な要素をベースに、身分の差を乗り越えていく女性のサクセスストーリーで新たな韓流市場を切り開いた、と言われている。
韓国の文化産業振興は90年代に入り本格化した。その背景は、他の産業振興と同じく政府主導、政策主導で行われた。政府は、1995年に「超高速情報通信網計画」、96年6月には小さな電子政府実現などを掲げた「情報化推進マスタープラン」によって情報インフラの整備を進め、99年にはこれまでの情報化計画を統合して、02年までに韓国を世界10位内の情報先進国にすることを目指した「サイバー・コリア21」を発表した。その結果インターネットの普及率、とりわけブロードバンドの普及率が著しく向上した。
それとともに金大中大統領は、98年に「文化大統領」を宣言し、文化産業育成を本格化させた。翌99年に文化産業振興基本法を制定し、その中で文化産業振興基金を設立した。01年には同法を改正し、重点施策をデジタルコンテンツに絞り、コンテンツ産業支援機関として文化コンテンツ振興院を設置。同時に「コンテンツコリアビジョン21」を公表し育成方向を明示した。02年には、オンラインデジタルコンテンツ産業発展法を制定し、「第1次オンラインデジタルコンテンツ産業発展基本計画(03年~05年)」を発表した。そこでは10年までに世界5位以内のデジタルコンテンツ国家とする目標を掲げる内容が盛り込まれ、専門人材育成、韓国製コンテンツの輸出振興が促進されている。
その結果、映像メディア分野では、海外での韓国ドラマの流行でコリアンウェーブを巻き起こし、オンラインゲーム市場ではすでに世界シェアの約4割を占め、コンテンツ産業の海外進出が顕著な成果をみせている。
ところで、コンテンツとは「様々なメディア上で流通する映像、音楽、ゲーム、図書など、動画・静止画・音声・文字・プログラムなどの表現要素によって構成される情報の内容」として説明される。そして、それらを産業化するコンテンツ産業とは、出版物、映像(映画、放送番組など)、音楽、ゲームなどコンテンツの製作、流通などに携わる事業を指す。これらは、創作性・創造性が高く、文化的・芸術的性格も強いことから、その産出物は、法制度的には、知的財産として著作権、意匠権などで保護される。最近のコンテンツ産業の動向を表に見ると、10年の売り上げは大きな変動が見られないが、同第4四半期から売り上げを伸ばし、11年第1四半期には4兆ウォン市場にまで拡大している。また、利益率は低下傾向にあるが、利益は上がっており、急速な市場拡大が営業利益の伸びを上回っているためである。
しかし、こうしたコンテンツ産業の盛況も先が見えているとの意見もある。困難を克服する恋愛ドラマの多い映像コンテンツだけですぐに飽きられる、というのだ。そうしたドラマが多いのは事実だ。私はこれらが、文化の質が高くない大衆文化だからだとは思わない。これらコンテンツに含まれる文化領域(個人文化、家文化、地域文化、国文化)が狭いからだと考えている。
例えば、80年10月21日から02年12月29日までMBCで放送したドラマ「田園日記」(全1088話)は、現在でも多くの人々の心に残っている。発展する国家、成長する国民経済の下で都市化が急速に進展する社会で、その影響を受ける都市近郊農村社会の生活と変わりゆく時代を見事に描いた作品である。そこで描き出されているものは、成長期韓国の農村がどのように都市化の影響を受けてきたのか、人々の価値観がどう変化しているのかなど、韓国文化が十分に盛り込まれた作品であり、田園日記には個人や家庭の文化だけでなく地域文化、国文化が含まれた崇高な韓国文化のメッセージがある。コンテンツ産業を担う人材は、産業利益の追求もさることながらコンテンツの歴史に潜む温故知新を再発見する必要がある。