◆韓国はFTA、日本はTPP?◆
韓米FTAが大詰めを迎えている。国会での批准に向けて与野党が最後の戦いに挑んでいる。大統領は収拾を図るために批准反対野党の主要大物に電話で協力を求めるほどである。韓米FTAが批准されると対EU・FTAに続く大陸市場との融合となる。
これまで韓国は2国間FTAを軸に対外経済戦略を展開してきた。2003年9月、盧武鉉政権(当時)は、FTA交渉の相手国の選定基準などを盛り込んだ「FTAロードマップ」を策定した。つまり、基本目標を対外部門での経済成長の動力確保におき、その相手国の選定基準を経済的妥当性、政治・外交的含意、相手国の締結意思、巨大・先進経済圏とのFTA締結に役立つ国家の4大項目とした。FTA締結のための戦略として、①重要な国家と同時多発的に締結、②巨大・先進経済圏との締結の2大軸に沿って、短期的候補国として、日本、シンガポール、ASEAN、カナダ、EFTA、メキシコを挙げ、中長期候補国として中国、米国、EU、日韓中FTA、東アジアFTA等を指定している。現在の韓国はこうしたFTAロードを進んでいるのだ。
10年上半期におけるFTA貿易比率(FTA相手国との貿易額が貿易総額に占める比率)は、韓国が36・2%とアメリカの37・5%に次いで高い。EUは対域外比率で29・8%、オーストラリアも24・9%と貿易総額の四分の一を占めている。ちなみに、国内市場規模に依存できる中国は22・0%、日本も16・5%と低率だ。韓国の成長戦略が海外市場に依存していることは、よく言われる貿易依存度の高さや増加し続けてきた対日赤字に象徴される。つまり韓国の開放度の高さは、成長と危機の諸刃の刃で、リーマンショックの世界金融危機、ギリシャショックの世界財政危機などの海外クライシスをほぼそのまま受けてきたことも事実である。
しかし、それ以上の輸出利益を追求することで、とりわけIMF危機以降、経済競争力・企業競争力を強化してきた。まさにFTAロードマップは、韓国のこうした開放型成長戦略を導いてきた「航海図」なのだ。
翻って、FTAへの取り組みに遅れてきた日本は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉参加に向けて苦しいかじ取りが続いている。日本のFTA外交はASEANなどの地域を対象としたものやスイス、チリなど国内市場規模の小さい国が目立つ。しかし、メキシコや11年9月に発効したインド市場大国との連携も徐々に進みつつある。だが、今回のTPP交渉参加はFTA交渉ほど甘くない。FTA交渉の場合には基本的に2国間交渉であり、税率の程度やお互いの比較劣位部門での調整などが主張し易い。しかし、TPPはもともと04年3月に発効したニュージーランドとシンガポールとの間の2国間協定「ANZSCEP」をベースとしていると言われており、全ての産業品に対し関税を撤廃するという枠組みである。その後、06年にニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイの小規模市場4カ国が発効させた協約がTPPで、工業製品や農産品、金融サービスなどをはじめとする、加盟国間で取引される全品目について関税を原則的に15年を目途に100%撤廃しようという完全市場開放を目指すものである。それをすでに参加表明をしている米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの5カ国及びコロンビアやカナダを含め、FTA後進国である日本が参戦しようという構図である。韓国は参加表明に慎重であり、中国は参加しない意思表明をしている。
こうした交渉環境は一方では、TPP太平洋すなわち米国主導経済圏への参加を意味し、他方では中国を含め06年に日本が提唱したASEAN+6(ASEAN+3、インド、オーストラリア、ニュージーランド)でFTA締結を目指す枠組への提唱国としてアジア経済圏への責任を果たさなければならない。同時進行戦略の可能性もあるが、その場合米中の覇権争いとアジアでの日中の主導権摩擦に直面することになる。
このような日本のFTA混迷状況に対して、韓国は政策レベルと企業レベルでの方向性は明確である。FTAの貿易利益効果を狙った海外市場戦略は、企業の競争力強化を通して収益性を高めている。最近ではFTAの投資効果を高めるため、部品部門、素材部門への投資誘致も進展している。
しかしそれも韓国の産業構造における組立部門の強さに対して、中間財部門の脆弱性がもたらした結果である。今後はFTAの貿易利益獲得効果もさることながら、産業構造の歪曲性改善をFTAの投資効果を高める戦略に主軸を据える必要があろう。