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2012/02/17

<オピニオン>転換期の韓国経済 第25回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第25回

◆従来路線の転換図る与党◆

 サムスン電子や現代自動車など、韓国企業の世界市場における躍進には目を見張るものがある一方、韓国国内では財閥企業に対する批判がここにきて再び高まっている。李明博政権の下で進められた規制緩和(財閥に対する総額出資制限制度の廃止、中小企業固有業種制度の廃止など)によって財閥企業の事業領域が拡大した結果、財閥への経済力集中や中小企業の経営圧迫などが問題になっていることが背景にある。

 韓国経済の特徴は輸出の成長への寄与度が高く、輸出の約7割を財閥系企業が担っていることである。2011年の実質GDP成長率は3・6%であったが、輸出の成長寄与度は5・3%になった。輸出の拡大は、①企業による新興国を中心とした海外市場の開拓(現地ニーズに見合う商品開発や広告宣伝)、②政府によるFTA(自由貿易協定)網の拡大、③ウォン安などに支えられている。

 日本ではグローバル化で先行した「韓国モデル」が一部で高く評価されているが、韓国ではそうではない。若年層の就職難や不安定な雇用環境はこの10年間さほど改善されていないほか、所得格差の拡大と貧困の増加が問題になるなど、財閥に依存した成長が国民の生活水準向上にさほど結びついていないからである。ちなみに、男性若年層の失業率は高止まりしており(上図)、「事実上の失業率」は20%を超えるとされている。

 「大企業寄り」との批判を受けて、政府は当初の減税と規制緩和路線の見直しに乗り出した。10年11月に流通産業発展法を改正し、在来市場から500㍍以内への大型店の出店を禁止したほか、同年末に「同伴成長委員会」を発足させ、大企業と中小企業が利益を共有する仕組み作りを開始した。11年9月には与党との協議の末、翌年予定していた大企業に対する法人税率引き下げを撤回(中小企業向けは実施)した。

 さらに今年に入り、大企業に対して、中小企業が本来担う事業からの撤退、休日出勤(労働時間規制の対象外)の抑制による雇用創出などを要請した。韓国の年間労働時間数は短縮化傾向にあるものの、OECD諸国のなかで最も長い。財閥企業も、創業者一族による財団の設立や寄付などにより利益の社会還元を積極的に進めているほか、最近になりサムスンや現代自動車、ロッテグループなどがベーカリー事業からの撤退を表明するなど、政府の方針に従う姿勢を示している。

 今年4月に総選挙、12月に大統領選挙を控える与党ハンナラ党に危機感をもたらしたのが、昨年10月のソウル市長補欠選挙での敗北(大企業への経済力集中を批判してきた朴元淳氏が当選)であった。12月には、野党の民主党が院外政党などと共同で新党(統合民主党)を結成して、財閥規制を強化する政策を打ち出した。

 こうしたなかで、ハンナラ党も政策を転換した。1月に「公正な経済秩序の確立」を目標として、福祉の充実と雇用対策に力を入れる新しい政策方針を発表したのに続き、2月には党名をセヌリ(新しい世の中)党に変更し、イメージチェンジを図っている。

 福祉の充実や雇用重視を掲げるのは望ましいことであるが、懸念されるのは支持の拡大をめざした政策がポピュリズム(大衆迎合主義)を助長して、財閥批判が「反企業」意識、分配重視が「反成長」志向につながることである。経済成長がビジネスチャンスを作り出し、福祉を支える財源を生み出すことを考えれば、「雇用を伴う成長」が追求されるべき方向である。

 韓国では大企業と比較して中堅・中小企業の発展が遅れている。遅れているがゆえに成長の余地がある。とくに重要なのが、高い技術力を有し成長が期待できる中小企業の育成である。大企業に続く企業の層が厚くなれば、①若年層の就職難の緩和、②優秀な人材の流入による中小企業の技術力強化、③財閥企業への経済力集中の防止などが期待される。若年層の就職難緩和は未婚率の上昇や少子化の歯止めにもつながるであろう。


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