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2012/05/25

<オピニオン>転換期の韓国経済 第28回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 20代青年の失業率8.6%に悪化

◆懸念される消費回復の遅れ◆

 グローバル化は韓国企業に成長の機会を提供する一方、韓国経済はグローバル経済変動の影響を受けやすくなっている。2012年1―3月期(速報値)の実質GDP成長率は設備投資が著しく伸びた結果、前期比(以下同じ)0・9%と、10―12月期の0・3%を大幅に上回った。需要項目では民間消費1・0%増、総固定資本形成3・7%増(設備投資10・8%増、建設投資▲0・7%)、輸出3・4%増、輸入4・5%増であった。

 ただし前期比で加速したのは、ほとんどの需要項目が10~12月期にマイナスに陥った(設備投資は7~9月期も)反動によるところが大きく、前年同期比成長率が2・8%(10~12月期は3・3%)にとどまったことを合わせて考えると、成長の勢いは弱いといえる。

 足元をみると、世界経済の低迷により、輸出(通関ベース、前年同月比)が3月▲1・4%、4月▲4・8%と前年割れが続いている。

 景気の悪化が進んだEU向けが前年水準を大幅に下回っていること、中国の景気減速の影響を受けて、アジア向けの増勢が鈍化していることが最近の特徴である。

 さらにここにきて、欧州債務危機の再燃を背景に、海外の投資家が新興国から資金を回収している影響でウォン安(円高)が加速するなど、為替レートが不安定になっている。ウォン安が続けば、輸入物価の上昇を通じてインフレを再び加速させかねない。

 消費に関してみると、自動車販売台数の前年割れが続いているほか(図参照)、デパートの売上も低迷している。これには、①交易条件の悪化と景気減速で実質国内総所得(GDI)が伸び悩んでいること、②債務の増加により家計に余裕がなくなっていること、③ソウル特別市では不動産市況の低迷が続いていることなどが影響している。

 世界経済の減速に伴う輸出の減速はこれまで何度も経験しており、今回もある意味で予想された展開である。むしろ現在懸念されるのは消費回復の遅れである。

 金融緩和を通じて消費や住宅投資など内需の刺激を図りたいところであるが、それを難しくしているのが期待インフレ率の高さと高水準にある家計債務である。

 消費者物価上昇率(前年同月比)は11年12月の4・2%より4月に2・5%へ低下しているが、食料・飲料価格の上昇幅が再び拡大したほか、住宅・光熱費と交通費の上昇が続いている。注意したいのは、期待インフレ率(1年先の予想インフレ率)が4月現在3・8%と高止まりしていることである。

 また世界的にみて高水準となっている家計債務は依然増加し続けている。11年半ばより「家計債務総合対策」が実施されたのに伴い、銀行からの借り入れが難しくなったため、運転資金や生活資金の必要な自営業と家計が銀行以外の貯蓄銀行、信用組合、クレジットカード会社などからの借り入れを増やしたためである。
 
 こうした状態が続けば、融資の「質の劣化」が進み金融機関の不良債権が増加する恐れがあるため、今年2月末、ノンバンクと保険会社を対象にした融資抑制措置が打ち出された。

 信用協同組合に対する預貸比率の引き下げや信用リスクの高い者に対する融資規制の強化、保険会社に対する銀行並みの貸倒引当金積み増しなどである。

 政府が家計債務の抑制に本腰を入れ始めたことは評価できるが、融資の抑制強化は消費を冷え込ませる恐れがある。これまでは輸出の拡大に支えられて成長が続いていたため、家計の債務問題は陰に隠れていたが、ここにきて成長を大きく左右する要因として浮上してきた。

 政府には家計債務問題のソフトランディングを図りながら、景気の落ち込みを最小限度に食い止めることが求められている。

 また債務返済負担の軽減には債務の抑制だけではなく、所得の増加が欠かせない。

 低中所得層の所得引き上げに結びつく経済成長を実現させることが、韓国の今後の課題といえよう。


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