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2012/07/13

<オピニオン>転換期の韓国経済 第30回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員②

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第30回

◆期待される日本企業の進出◆

 前回指摘したように、韓国では近年「韓国型成長モデル」の内実が問われてきた。若年層の就職難や雇用・所得環境の改善の遅れ、貧困の増加など、財閥企業のグローバル展開に依存した成長が国民の生活水準の向上にさほど結びついていないためである。

 さらに李明博政権下で進められた規制緩和に伴い財閥への経済力集中が進む一方、財閥グループの事業拡張による中小企業の経営圧迫、財閥の様々な不正行為の発覚などにより、国民の財閥グループに対する眼差しはこれまでになく厳しいものとなった。

 今年12月の大統領選挙は今後の韓国経済の方向を決めるものである。反財閥のムードに流されるのではなく、今後の成長のあり方について活発に議論されることが望まれる。そのなかで、高い技術力を備えた中小企業の育成や国内の産業リンケージ(連鎖)の強化は重要な論点といえる。

 財閥企業の成長の成果を国内に波及させるためには、輸入に大きく依存している高機能素材や基幹部品の国産化を図り、産業リンケージを強化することが必要となる。これまでは、財閥グループがグループ内で内製するか海外から輸入していた。

 この点で注目されるのは、最近、素材・部品分野に日本企業が進出していることである。韓国知識経済部の統計(申告ベース)によれば、日本からの直接投資額が2012年上半期に前年同期比195・9%増となった。景気の悪化したEU(欧州連合)からの投資額が大幅に減少したため、上半期は日本が最大の投資国・地域となった(下図)。

 とくに製造業分野で投資が著しく増加している。二つの理由が考えられる。

 一つは、日本企業の納入先として韓国企業の存在が大きくなったことである。韓国企業は2000年代に入り、輸出や現地生産などを通じてグローバルな事業展開を加速させた。

 日本企業はサプライヤーとして、生産に欠かせない基幹部品や高機能素材、製造装置を供給してきたが、供給の拡大に伴い現地生産しても採算がとれるようになったほか、現地生産により、①納入先からの情報入手および納入先とのコミュニケーションが容易になる、②共同開発を進めやすくなる、③為替変動リスクを回避できるなどの効果が得られる。

 もう一つは、韓国政府がFTA(自由貿易協定)の締結を積極的に進めてきたことである。EUとのFTA(11年7月1日暫定発効)に続き、米国とのFTAが今年3月15日に発効した。これにより、韓国で生産し「韓国製」として輸出した方がEUや米国市場へのアクセスで有利となり、投資先としての魅力が高まった。日本と比較しての法人税率の低さや電気料金の安さ、ウォン安などがその魅力を高めている。

 日本の対韓投資の増加は中期的にみて、次のような効果をもたらすと考えられる。

 第1は、韓国国内の産業リンケージの強化である。日本からの輸出が現地生産に代替されれば、日本に漏れていた需要が国内にとどまることになる。同時に、高機能素材や基幹部品の生産により、「質の高い」雇用の創出にも寄与する。

 第2は、今述べたことと関連するが、対日貿易赤字の縮小である。11年に入って以降、韓国の対日貿易赤字は縮小傾向にある。現地生産の拡大によりこの傾向が強まる可能性がある。対日貿易赤字問題は日韓経済連携協定をめぐる政府間交渉(中断)でも争点の一つとなったため、その縮小は交渉再開に向けてプラスに作用するであろう。

 第3は、日韓の生産分業ネットワークの緊密化である。日本企業の間で、コストパフォーマンスに優れた韓国製部品や鋼板を調達する動きが広がっており、日本企業の韓国進出はこうした動きを拡大させよう。

 両国経済を取り巻く環境が大きく変化しなければ、韓国政府が日本企業誘致にこれまでになく力を入れているため、日本の対韓投資は高水準で推移するであろう。この動きを韓国政府は有効に活用することが期待される。


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