◆FTAの影響が表れる韓国の自動車産業◆
韓国政府は近年、積極的にFTA(自由貿易協定)を締結してきた。昨年以降、自動車の輸出と国内販売にその影響が表れている。
リーマンショック後の世界経済の後退により、自動車の輸出は2009年に著しく落ち込んだが、10年前年比(以下同じ)29・0%増、11年13・7%増、12年上期10・4%増(約170万台)と、最近まで2桁の伸びを維持してきた。この要因には、①米国の底堅い景気、②新興国の成長持続、③ウォン安に加えて、FTA効果が指摘できる。
EU(欧州連合)とのFTAは11年7月1日暫定発効し、EUの韓国車に対する輸入関税が排気量1500㏄以下の乗用車は10%から8・3%に、1500㏄超は同10%から7%に引き下げられた。これにより、発効後輸出が急増した。韓国政府は「韓国―EU発効後『100日間の成果』」において、輸出全体が減少するなかで自動車が増加したのをFTAの主要成果の一つとしてあげた。
その後、今年3月まで前年同月比2桁の伸びを続けたが、EUの景気悪化に伴い4月に前年割れとなり、5月、6月は30%を超える減少となった(図参照)。景気の悪化がFTA効果を打ち消した形である。
EUでは販売不振により自動車メーカーの経営が悪化している。こうしたなかで韓国車のシェアが上昇したため、仏政府がセーフガードの発動を検討している。
米国とのFTAは今年3月15日に発効した。
完成車に対する関税率は据え置かれているにもかかわらず(5年目に撤廃)、自動車の対米輸出は3月の発効前後に急増した。FTAの「喧伝効果」ともいえる。
このほか11年8月にペルーとの間でFTAが発効(大型車の関税は即時撤廃、中型車は5年内に段階的に撤廃)したことにより、同国への輸出が伸びている。
このようにFTA効果で輸出が後押しされたが、今年7月の自動車輸出が前年同月比▲10・4%となったように、輸出環境は厳しくなっている。
他方、韓国国内でもFTAの影響がみられる。国内の自動車販売台数は09年に20・7%増(自動車購入促進策の効果が大)と高い伸びになった後増勢が鈍化し、12年上期は▲6・0%(約69万5000台)となった。販売の低迷には、①実質所得の伸び悩み、②債務返済負担の増大、③政府による家計債務抑制策が影響している。
輸入車の市場規模は小さいものの、近年着実に拡大して11年に初めて10万台に乗った。今年上期に韓国車の販売が低迷したのと対照的に、輸入車の販売は20・5%増となった。
最近の特徴は欧州車のシェアが上昇していることである。フォルクスワーゲングループが07年の16・4%から12年上期に24・2%、BMWが14・3%から23・3%へ上昇した。欧州車のシェアが上昇している一因に、大型車に対する関税率が従来の8%から5・6%に引き下げられたことを受けて、各メーカーが高級車分野を中心に積極的に値下げを行っていることがある。
価格差の縮小により、韓国車から欧州車へのシフトが生じたため、韓国企業も値下げに踏み切っている。
欧州車の攻勢により日本車のシェアが近年低下してきているが、ここにきて日本企業も韓米FTAを利用するなど新たな対応を取り始めたのが注目される。トヨタは11年11月、米国製ミニバンの韓国輸出を始めたのに続き、12年より米国製カムリの輸出も開始した。ルノー・日産グループは最近、14年から小型クロスオーバーSUV「ローグ」の後継モデルをルノーサムスンの釜山工場に委託生産し、米国に輸出する計画を打ち出した。経営が悪化したルノーサムスンの立て直しを図るとともに、韓国を輸出拠点として活用する狙いである。
市場を取り巻く環境の変化にどう戦略的に対応していくのか、企業にとって重要なテーマになってこよう。