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2012/10/26

<オピニオン>韓国経済講座 第145回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • 韓国経済講座 第145回

◆韓国輸出は誰が引き受けるのか◆

 韓国人は国家と家族の絆が強い。それに対し日本人は企業や組織などの中間単位のまとまりが強いという特徴がある。国家でまとまり家族でまとまるのはいわば民族でまとまる強さだ。

 ところで、2003年のFTAロードマップ作成以来、積極的なFTA交渉を行い欧米など世界の主要大陸市場との連携が完了し、残る主要国は日中露など近隣市場で現在交渉段階にある。

 こうした積極的な海外市場戦略は国内市場が狭いことがその理由と言われている。

 話は変わるが、朝鮮半島からの移民の歴史は長い。韓国旅行会社であるコネストが紹介する「韓国移民史博物館」の頁に韓国の移民が簡潔に紹介されているので引用しよう。

 <韓国(朝鮮半島)からの移民>

 「1800年代末に凶作や日本の圧力の影響で中国やロシアの極東に向けて移住する人が増加。約120人が乗った初めての公式の移民船が1902年にハワイを目指して出発しました。その後、中南米への移民船が続き、現地で開墾などに従事。日本植民地時代には日本や中央アジアなどにも労働者が渡りました。朝鮮戦争後はアメリカや南米、ドイツなどのヨーロッパが移民先となり、各種の仕事に従事。2000年代初めには海外で暮らす韓国系人は約700万人に達したとされています」。

 こうした移民史に共通するのはいずれもプル要因(海外に魅かれる)であり、国土を失うディアスポラと混同されている。現在の韓国人移民の状況は、在外同胞財団によると、アジア地域(406万3000名)、アメリカ地域(252万1000名)、ヨーロッパ地域(65万6000名)、中東地域(1万6000名)、アフリカ地域(1万1000名)で、合計726万7000名である。こうした移民たちは長い居住経験を経て確実に移民国に定着し、さまざまなビジネスを展開している。

 韓国の海外市場戦略と移民の経済活動が結びついていることはあまり知られていない。韓国の経済発展要因としてよく言われるのが輸出志向工業化戦略である。韓国は国内市場の狭隘性と外貨不足を克服するため60年代後半以降政府が輸出促進策を積極的に打ち出し、財閥をはじめとする企業が輸出生産を果敢に進めたことが成長をもたらしたとするものだ。

 こうした分析視角は韓国発展の一面を説明するものであることは間違いない。輸出政策、産業政策、科学技術開発、企業経営などの発展はいずれも国内成長要因であり、それはそれで的を得たものであるが、いったい輸出製品は誰が受容したのか、と言った輸出伸長の最も基本項目は説明されない。筆者は、この欠落要因に移民の経済活動を埋め込もうと考えている。いうまでもなく韓国の輸出需要を移民経済だけで説明できるとは考えていない。しかし、彼らの果たす役割は看過できない。

 例えば、かつて韓国自動車がカナダに初めて輸出された時、当初海外移民がセカンドカーとして購入し、それが市場を作り出し、カナダでベストオブザイヤ―カーとなり、その後巨大なアメリカ市場にこれも在米移民から浸透したと言う経緯がある。つまり韓国の海外市場進出にはアメリカだけでなく日欧中などでも彼らの役割が重要なのだ。

 今年の10月には表に掲げた在外経済人と国内企業との一大イベントが開催された。まさに海外戦略と移民経済が結びついたコリアンビジネスネットワークである。10月12日~15日まで行われた世界韓人貿易協会(World OKTA)の第17次総会には約1000人近くの内外経済人、企業が参席し、輸出商談会、国際シンポジウム、次世代フォーラム、海外市場開拓要因フォーラム、海外バイヤー招請業種別フォーラムなどが行われた。

 引き続き16日~18日にソウルCOEXで行われた第11次世界韓商大会では47カ国から1100名の経済人と国内350社の中小企業など総勢3000名が参加した。

 ここでは現在の大統領候補者3名が逐次訪問し挨拶を行うほどの力の入れようだ。開幕式の後韓商ビジネスサミットと題した事業交流、ビジネスネットワーキングセミナー、韓商トークコンサートなどが行われた。特に広い会場に多くの韓国企業がブースを設け韓商バイヤーとの商談は盛大に行われた。


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