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2012/03/09

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ 第25回 エルピーダメモリの経営破綻と韓国半導体産業                                                  ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

  • ディスプレイバンク日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からディスプレイバンク日本事務所代表。

◆市況改善の機会として認識◆

 日本で唯一のメモリ半導体メーカーであるエルピーダメモリ(以下エルピーダ)の座礁に日本社会は大きな衝撃に打たれたようだ。日本経済新聞によると、エルピーダは2月27日、会社更生法の適用を東京地裁に申請し、受理された。負債額は約4480億円で、製造業では過去最大となる。2009年には公的資金300億円を使って政府が同社の再建を支援したが、市況低迷や円高で業績が悪化し今回の事態に至ったという。世界に誇る日本の「ものづくり」の天守閣はもはや凋落の局面を迎えている。今回のコラムでは、日本と韓国のメディアが共通に指摘しているエルピーダ破綻の原因を考えてみたい。

 1980年代に入って、日本は米国の後を継いで、世界のメモリ半導体市場での絶対的な強者として君臨した。87年には世界シェアが70%台に達し、NEC、東芝、日立、三菱、富士通などは世界の半導体トップ10社に名をあげ、その勢いを誇示した。しかし、大規模な投資をベースに追撃攻勢を始めた韓国メーカーなどに押され、日本はDRAMからその勢いを失い始めた。

 読売新聞はエルピーダの経営破綻が日本の製造業の厳しい現状を象徴しているとしながら、80年代の世界を席巻した日本の半導体が、歴史的な円高と経営判断の誤りで、新興国にその座を奪われたと報道した。同紙は、「半導体は2~3年周期で市況が大きく変動する業種であり、韓国のサムスン電子などは、市況が悪化した時、むしろ大規模な投資で製品競争力を高めたが、日本メーカーは増産に伴う価格の低下を避けるために、むしろ投資を減らした」と指摘した。

 朝日新聞は、「エルピーダの経営悪化は、サムスン電子とハイニックスなどの価格競争で抑えられたため」とし、「欧州の財政危機などで、パソコン需要も低迷し、DRAM価格も急落した」と伝えた。同紙は、「エルピーダメモリが、今後パートナーを探して再生を試みるが、世界市場を掌握しているサムスン電子が巨額の投資を遅らせる兆しさえも見せていない」と指摘した。

 毎日新聞も「日本政府が09年のリーマンショックでエルピーダが倒産の危機に直面したときに公的資金を投入して韓国メーカーと対決するという戦略を実行したが失敗した」と報じるなど、日本メディアではエルピーダの破綻は韓国メーカーとの競争で負けたことを主原因としてみている。しかし、単なる価格競争や投資能力だけではなく、その裏には、もっと大きく根本的な日韓の差もあるようだ。

 韓国の経済紙「韓国経済新聞」では、エルピーダがサムスン電子に勝てない5つの理由という題名の社説があったので、ここで紹介しよう。

 オーナー経営であるサムスン電子は、不況の中でも大規模な投資を継続してきた。DRAM需要が減少し価格が低下した時、むしろ追っ手を完全にかわす攻撃的な戦略を採用した。一方、エルピーダは不況のたびに投資を減らし、好況期が訪れても追撃するのが難しかった。オーナー経営ではない企業で、こうした積極的な投資を期待することは不可能である。

 サムスン電子は、徹底的に市場主導で行ったが、エルピーダは、政府補助金に依存する国営企業だった。サムスン電子は、政府職員の反対にもかかわらず、半導体を始めた企業である。NEC、日立、三菱が連合してエルピーダメモリが誕生した時の半導体事業は、すでに国営事業となった。エルピーダが破産の危機に追いやられると、日本政府が数百億円の公的資金を緊急投入したのもこのためであった。

 明確な目標とロードマップの面でも、エルピーダはサムスン電子のライバルとしては物足りない。サムスン電子は半導体を始めた時から、日本に追い付くという明確な目標を持っていた。DRAM生産開始9年目の92年に日本を追い越した後も、過去20年間止まることなく、市場をリードして来た。メモリと非メモリの間で右往左往していた日本が、一歩遅れて連合軍を作り、サムスン電子に対抗しようとしたが、勝負を元に戻すには、既にタイミングを逃していた。

 サムスン電子のスピード経営も欠かせない。サムスン電子は、メモリー市場を追撃する時に、新製品の開発を順次ではなく、同時多発的に推進する、いわゆるパラレル開発方式を採択し、時間を大幅に短縮した。市場1位になった後も、新製品の開発と大量生産ラインの建設を並行するほどだった。昨年、エルピーダは20ナノ級DRAM開発を発表した時、サムスン電子が特に関心を示さなかった理由も、開発と量産、スピードの面では、誰もサムスンを真似することができないという自信があったからである。

 サムスン電子の事業ポートフォリオ(資産構成)には、エルピーダではあり得ない強みがある。半導体などの材料から電子製品などの完成品に至るまで、垂直統合的な事業構造がもたらす融合効果は強い。規模と範囲(事業カテゴリー)の両面で、エルピーダメモリがサムスン電子を追うことは絶対不可能であった。

 同紙は以上の5つの理由でサムスン電子の強みを分析しているが、私も同意したい。特に、エルピーダと日本政府の間に、独立性と責任について議論が足りなかったのでは考える。

 現在、DRAM価格は反騰の動きを見せている。市場では、エルピーダの消滅が望ましいかもしれない。世界で6割を占めている韓国DRAMメーカーも、市況改善のチャンスとしての認識が強いが、日本としてはエルピーダの破綻は悲しいばかりである。


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