◆エルピーダ買収線で収穫得る◆
世界2位の半導体DRAMメーカーである韓国のハイニックスが、今年2月にSKグループに最終的に買収された。1997年の通貨危機を契機に構造調整対象になった韓国の半導体産業は、現代電子の半導体部門とLG半導体を統合してハイニックスを誕生させた。新生ハイニックスは2000年代初期まで実績不振を繰り返して02年には売却に失敗するなど、経営回復に疑問も多かった。その後、2000年代の中盤から好況期をたどりながらDRAM分野では世界2位のシェア(11年基準23・7%)を維持している。この点は日本のDRAM産業の構造調整とエルピーダが見せた結果とは完全に違っている。日立とNECのDRAM事業を統合して立ち上げたエルピーダは、実績不振と資金難に耐えられず、結局破綻を経て米マイクロンに売却されてしまった。韓国にはサムスン電子というDRAM超大手があるにも関わらず、第2位の企業が存在し、成長を続いている。LCDパネルやテレビ事業でも1、2位の企業が並んで存在するのが韓国という点も日本から見れば驚きであろう。
ハイニックスを傘下に収めたSKグループの出発は繊維加工メーカーであり、58年に韓国で初めて繊維輸出の道を開いた。80年には、政府系企業だった大韓石油公社を民営化する際、事業者として選ばれ、以後は原油輸入や精製、関連化学事業を展開してきた。現在は韓国最大の石油、エネルギー、化学企業に成長している。石油化学が主軸のSKが、さらに一段階成長できたのは、80年代半ば、やはり政府系企業だった韓国通信傘下の大韓移動通信を民営化する際に事業者に選定されたためだ。そのSKテレコムは、現在加入者数が最も多い通信サービス事業者となっている。同時に情報通信技術を駆使した多様な関連事業を展開している。
このように国家基幹産業と先端通信産業に参入することで、成長に成長を重ねてきたSKグループに対して、内需に事業の比重がありすぎるという指摘もあるが、海外での油田開発や資源開発事業など国家的に大変に重要な事業を担っているという点は否めない事実である。ただし、持続的な成長のためには事業規模はもちろん、次世代産業への参入が必要なタイミングであった。
ハイニックスの買収を通じてSKは世界的なIT産業の巨人と肩を並べることができたようだ。4月には日本のエルピーダ支援の意思を明らかにし、エルピーダ支援入札に参加した。これは新生SKハイニックスの経営の競争力を見せた一面である。実際、エルピーダを買収するためには数兆ウォンの莫大な資金が必要で、ハイニックスの買収に資金を尽くしたSKとしては不可能に近い状況にも関わらず支援候補に名乗り出た。買収戦に参加すれば、エルピーダの実状を詳細に把握できるという点から実態調査団をエルピーダに派遣した。02年に米マイクロンがハイニックスを買収するという名目でハイニックスの技術、事業および経営戦略に対するすべての情報を調査したことがあったが、その時の経験を活用したわけである。エルピーダはDRAM分野では世界3位だが、最近成長が著しいモバイルDRAM分野では圧倒的な競争力(17%、11年基準)があると知られている。このモバイルDRAMに対する技術や事業展開の内容を把握することによって、今後エルピーダを取得した米マイクロンとDRAM2位のシェアを争うべく、SKハイニックスとしては非常に有用な情報を得たことになっただろう。しかも、買収戦を通じて、買収価格を高騰させ、マイクロンの負担を増やすという成果も上げた。少しでも打撃を与えた後、 今月4日にハイニックスは戦略上、有利な点がないとの理由で、エルピーダ買収戦からの撤退を表明した。
DRAM価格はまだ回復の予測もできていないが、パソコン需要が回復する可能性がある。SKハイニックスがエルピーダを取得していれば、合計シェア35%で、サムスン電子のシェア43%に接近することになる。しかし、相変らず不安定な市場なだけに、財務的負担が大きいエルピーダを抱えていては、落ち着いて回復を待つことができないという経営判断は当然で、妥当な結論であった。SKのハイニックスに対する経営戦略は、ひとまず合格点であろう。
一方、SKテレコムという国内最大の移動通信サービス事業者を通じて、ハイニックス半導体の国内実績改善も期待される。スマートフォンを製造するメーカーであるサムスン電子は、自社の半導体製品を採用しており、SKテレコムとしては、ハイニックスの製品を採用したLG電子やパンテックと更に友好的な関係を築くとみられる。これら端末メーカーがSKテレコムにスマートフォンを納品するためには、より多くハイニックスの製品を使うことになるだろう。
SKは、非メモリー部門に対する投資にも積極性を見せている。SKハイニックスは現在の売り上げの2~3%程度にとどまっている非メモリー部門を15年までに9%まで引き上げると明らかにした。サムスン電子が次世代の成長事業としているこのシステム半導体事業をSKハイニックスも積極的に育成しようと意志を見せたのだ。システム半導体の代表的な製品にはスマートフォン用プロセッサ(AP)もある。こうなれば、SKが数年前に断念したスマートフォン事業に再進出する可能性もある。ハイニックスがSKと出会い、全く新しい可能性の軌道に乗った。強力な2位のメーカーを得た韓国の半導体産業が、もう一度、前進する契機になると信じるばかりである。