◆成果共有システムの制度化を◆
日本の先端産業技術は、ここ数十年の同国の経済成長を導いてきた。だが、この10余年の間に韓国企業の技術が進歩し、最近では中国企業が急激に成長。そのために競争力は下がり、東アジア国家間の技術格差は狭まっている。自動車、電子、造船産業の技術格差縮小のみならず、日本が優位だと考えられた鉄鋼や化学素材も同様だ。
先端技術の開発には、莫大な資本と時間が投入される。そして後発国家(または企業)が追随する間、多くの利潤を生む。これが次の技術への投資を可能にし、市場の主導権を維持するようになる。企業にとって新しい技術開発は何よりも重要だが、開発した技術の流出を防ぐことは一層重要かつ難しい課題となっている。
最近、日本では先端技術の海外流出問題を大きく扱っている。しかも日本政府が実態を調査し、国家的対策を立てるという。今更と思うのは、筆者だけではないだろう。筆者が20代だった1980年代、韓国では日本との技術格差は30年あると言われた。しかし、どの産業を見ても、それだけの格差はない。それどころか日本より先んじた分野は多くある。世界市場で1位を占めるテレビやディスプレー産業はもちろん、自動車、鉄鋼、造船においても日本との差がほとんど見られなくなった。
この30年間、韓国は日本の技術に追い着こうと熱心だった。日本の先端技術に関する分析や技術開発ができる環境、企業、国家、大学の役割を比較しながら、国産の技術を開発してきた。さらに歴代の政府が、これを支援してきた。その結果が今日の韓国を作ったとしても、過言ではない。
このように韓国が先端技術を蓄積した過程には、日本企業の韓国進出による技術移転がある。また、日本の現地企業訪問時の見聞を基にし、試行錯誤の末に独自技術を開発した話も多く聞かれる。特許情報や製品分析によって生産技術を繰り返し推測したことで、獲得した技術もあるだろう。90年代以降は日本の企業または特定事業部門を買収することで、技術とノウハウを獲得している。
日本の技術をそのまま国産化したものが存在するという日本企業の指摘に対しては、意見が分かれるだろう。ヒトが入ってくれば、技術も付いて来るとは限らないためだ。また、技術者の待遇が日本で正当に行われなかった場合、当該技術者が海外に流れ出たとしても、非難することはできない。バブル崩壊後、多くの日本の技術者が韓国や中国に流れた。彼らの技術が現地企業に流れたこと自体に関しては、日本企業に責任があるのかも知れない。技術者の成果共有および責任意識を生む環境が日本の企業にあったのかについて、考えてみる必要がある。ヒトの移動による技術流出には議論の余地があり、裁判での判決は難しいようだ。
今年5月末、この議論は本格化した。新日本製鉄が韓国のポスコに対して高機能鋼板技術を不当に取得したとして、東京地方裁判所に訴訟を起こした。要求した損害賠償は1000億円だという。新日本製鉄は60年代から同技術を事業化し、世界シェア30%を占めている。この高機能鋼板は高い付加価値を持ち、今後は新しい電力システム(スマートグリッド)の拡大によって急成長すると予想されている。だが、2000年代半ばから同事業に参加したポスコが世界シェア20%に迫る実績を出し、新日本製鉄を脅かしているという。ポスコは独自技術だと主張。だが、偶然に一つの端緒を得ることになる。07年に該当技術がポスコから中国に流出したが、容疑者の裁判の過程で該当技術がポスコでなく新日本製鉄のものという主張が出たためだ。これを端緒にし、新日本製鉄の元社員がポスコの高機能鋼板の技術開発に深く関与したと明らかになった。しかしながら、この訴訟で新日本製鉄が有利であるとは断言できないだろう。
ここで注目したいのは、内部者の買収によって技術を盗み取るケースが韓国から中国の方向へ活発に進行している点だ。韓日の技術流入は企業の提携や合併、人材移動によって長い時間をかけて行われるが、これが短期間で簡単に中国へ流出している。上記のポスコの件以外にも、自動車や造船などの韓国産業界では中国企業を最終消費者とする情報取引が深刻化している。韓国企業は、内部者の買収を防ぐための制度を検討する時期に入った。特に成果を個人と共有するシステムは、個人が自発的に組織を保護する動機となるだろう。まだ韓国企業は、このような意識を十分に共有していない。
今年6月にはオボテック(イスラエルの光学検査機器会社)韓国支社の職員がサムスンとLGディスプレイの有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)テレビ生産ラインに出入りしながら回路図などを撮影し、中国のディスプレー会社に提供する事件が発生した。中国業者との技術格差が縮小する可能性などを考慮すると、量産を控えた両社の損害は1兆ウォンに上るという。問題となっているのは、サムスンとLGディスプレイのセキュリティーシステムだ。次世代ディスプレー産業の主導権争いは一層激しくなることから、今回のような事件は繰り返される可能性もある。
最後に夢のような話となるが、内部者だけでなく事業に携わる協力会社の職員とも成果を共有し、彼らも技術保護に参加できる環境が実現しないものだろうか。