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2012/10/12

<オピニオン>ハリー金の韓国産業ウォッチ 第32回 「江南スタイル」と韓国の競争力                                                  IHS DISPLAYBANK日本事務所 金 桂煥 代表

  • IHS DISPLAYBANK日本事務所 金 桂煥 代表

    キム・ゲファン(英語名ハリー・キム) 1967年ソウル生まれ。94年漢陽大学卒業後、マーケティング系企業に入社。2004年来日し、エレクトロニクス産業のアナリストとして活動。09年からIHS DISPLAYBANK日本事務所代表。

◆普遍的ニーズ満たし新しい価値提案◆

 このコラムでK―POPについて語る場合、文化産業に関連した経済効果などを挙げるべきなのだろう。しかし、今回は韓国の歌手PSY(サイ)および世界で快進撃をみせている彼の楽曲「江南スタイル」について話したい。

 万が一、PSYを御存知でない方のために、簡単に説明しよう。PSYはデビュー12年目の中堅歌手であり、音楽プロデューサーだ。

 ソウルの富裕層地域である江南で生まれ育ち、米国東部のバークリー音大で修学。2001年に韓国でヒップホップ歌手としてデビュー以降、作詞、作曲、プロデューサー、公演演出者としてK―POP産業に携わってきた。

 PSYを一躍世界的スターにしたのは、今年発売された6thアルバム中のダンス曲「江南スタイル」だ。

 7月15日に公開された同曲のプロモーションビデオは動画サイトのユーチューブで一日平均700万レビューの勢いをみせ、4億レビューを達成した。9月末時点でアイチューンズは41カ国で1位、英国ビルボードチャートは1位、米国ビルボードチャートで2位を占めた。この成功は経済的利益に結び付いている。歌手と所属会社の大きな直接的収益のほか、韓国と韓国企業が受ける2次的経済効果も莫大なものとなるだろう。

 PSYはソウルの市庁広場で野外公演を開催、222カ国にユーチューブで生中継された。PSYが野外公演中に焼酒「チャミスル」をラッパ飲みし、チャミスルの生産会社であるハイト眞路は約250億ウォンの広告効果を上げたと予想している。このシーンは3分間だ。現代自動車がスーパーボール競技で3分の広告を出したときの効果と比べたものだが、韓国企業が韓国のスーパースターを通じて広告効果を得たのは間違いない。

 いままでのK―POPの成功は「少女時代」「KARA」「東方神起」「G―Dragon」などアイドルグループ中心だったが、平凡な顔をした30代半ばの男であるPSYは、違った形の成功の道をみせた。

 音楽においてはジャンルの多様性の成功であり、ダンスにおいては独創性とパフォーマンス力量の成功だ。PSYは英語を上手く駆使できることから、現地での活動がより活発になる可能性は高い。すなわち、現地化しても成功の可能性は高い。

 日本で会う外国の人は「江南スタイル」について尋ね、江南がどこにあるのかを確認しようとする。そんなとき、私はこのように説明する。江南はソウル漢江の南側の東部地域にあり、80年代と90年代は江南に住むことが経済的成功の象徴だった。江南は教育環境として最も良い地域というイメージを持つため、この地域の不動産価格は韓国で最も高い。不動産バブルの震源地でもある。ソウルの他地域で育った人たちに比べると、江南で生まれ育った若い世代には一定の特徴がある。これが「江南スタイル」の背景だと思う。

 その特徴とは、プライドまたは差別的な優越性かも知れない。だが、ソウルの様々な地域でプライドが共存する現在、江南の優越性はあまり説得力を持たなくなっただろう。

 しかし、相変らず江南は文化・経済の先導的アイコンだ。多くの若者が夢を求めて江南に移り、成功神話を作る。過去十数年間、幾多のベンチャー企業が江南で設立した。

 2008年には、サムスンが本社を江南に移転。サムスンはマンハッタン、ウォールストリート、シリコーンバレーを複合的に連想させる同地域に魅力を感じたのかも知れない。「江南スタイル」は韓国経済の成長とプライドの象徴である江南、そして自信にあふれた江南の若者を連想させる。

 その一方で、サムスン電子のスマートフォン「ギャラクシーS3」について考えてみる。このスマートフォンは9月初めに2000万台販売を突破し、同社の営業実績に大きく寄与した。

 サムスン電子の今年第3四半期実績は売上52兆ウォン、営業利益8兆1000億ウォンを記録。売上は前年同期比26%増、営業利益は約90・59%増えた。

 サムスン電子の主力事業である半導体とディスプレー部門が不振であることを考慮すると、スマートフォン事業がどれだけ好実績だったのか分かる。世界市場で評価されなければ、成し得なかった結果だ。

 PSYの音楽がジャンル的に共感を呼び、世界の若者が彼のダンスを真似る様子をみると、韓国製品が常に普遍的ニーズを満たしながらも新しい価値を提案し、さらに世界市場で広まることを期待したい。


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