◆相乗効果で強みを発揮◆
日本のエレクトロニクス産業が低迷を続ける中、CEOの交替を始め事業形態の再構築や合理化、人員削減など、急を要する経営の建て直しが急ピッチで進められている。
ソニー、東芝、日立の3企業に、産業革新機構が2000億円の出資よって4月1日に設立されたジャパンディスプレイ(従業員約6200人、資本金2300億円)は、今後の日本のディスプレー産業を占う試金石として注目される。
中小型液晶の既存事業の合体とともに、有機ELの分野では各社の得意とする技術を重ね合わせ、世界市場での新たなビジネスを開拓する戦略を掲げている。
ディスプレー産業では世界をリードしてきた日本の威信をかけた協業体制である。
一方、サムスンのグローバル戦略が功を奏して多くの分野で発展している姿が特徴的である。その発展を支えている強みを、韓国で5年間の業務を経験した私なりに分析すると、大きく6つの要素が見えてくる。その構成は、①貪欲な学びの精神、②徹底したベンチマーク、③地域専門家養成による地域密着姿勢、④競争意識、⑤グローバル人材の積極採用、⑥責任体制である。
①の貪欲な学びの精神は、歴史的にあらゆる分野で後発からスタートしたハングリーなキャッチアップ体制により築かれたもので、短期間で追いつき追い越すという明確な目標によって推進されている。
その精神はビジネスの側面だけではなく、語学研修やスポーツなどでも同様で、徹底した集中と短期習得の努力が随所に見られる。
②の徹底したベンチマークは、競合他社の製品をベンチマークすることは元より、コスト分析、アフターサービス、さらには研究開発テーマまで、その範囲は広大である。そこから競争力のある製品というハードと、信頼性やブランド力というソフトの充実などへ繋げていっている。
③の地域専門家養成による地域密着姿勢は、1990年の制度開始により現在では4200名以上を養成した。先進国を始め新興国、途上国に至るまで希望者が非常に多い中、厳選された人材のみが受けられる教育システムであり、その人材育成にはこれまでに320億円以上を投じている。国や地域の文化、慣習を体得することが、その国や地域でのビジネスを展開する上で力強い原動力になる。
④の競争意識は、企業の発展を支配する最大の源泉のひとつであり、企業間競争意識は当然ながら、個人間競争意識を前面に打ち出すところに日本との違いが見え隠れする。産業界では圧倒的に就職人気度の高いサムスンに入社すれば、ひとまず安泰と考えるのは日本人的発想のようで、現実はそうではない。
大学進学、就職活動で競争意識をむき出しにして勝ち得た入社の後に待っているものは、サムスンでの同期、同僚との新たな昇進競争である。したがって、その生き残りに限りなくエネルギーを投じるが、限界を感じて早々に退社する場合も多く、結果として平均在籍年数は約8年などと言われる所以がある。このような個人間競争意識が企業の競争力を支えている部分は少なからずある。
⑤のグローバル人材の積極採用は、これだけ市場がグローバルな動きをしている現状では避けては通れない、むしろ積極的な取り組みが必要な時代を迎えている。日本のソニーもイオンも新卒使用から外国人枠の比率を設定している。そうなると、日本の学生も外国人を含めた就職競争の現場に晒されるわけで、しっかりした自身の強みとアイデンティティーをもっておく必要がある。
サムスンのインドにおけるソフト開発センターや、拠点地域ごとにおけるデザインセンターなど、グローバル人材の活躍の場は無限と言えるほどある。
4月中旬には韓国で2日間にわたり、外国人役員のみを対象にした合宿形式のグローバルセミナーが開催される。どんな内容で実施されるのか期待しながら私も参加する。
⑥の責任体制は明確であり、なかなか明確な責任をとらないケースの多い日本企業との違いもここには存在する。特にCEOや役員の責任は、事業の失敗は言うに及ばず、成長や発展の成果が見えない場合にも責任が付いて回る。
以上の6つの要素を束ねてみると、それが結びつくことで大きな相乗効果と強みを発揮する。それがスピード感と決断力のある経営体質、市場が何を必要としているかのタイムリーなマーケティングと製品開発、技術力とブランド力の向上を促す強みと分析する。