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2012/06/08

<オピニオン>生産拠点のグローバル化                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。10年度より秋田県教育視学監併任。11年度名古屋大学客員教授併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から83回までの記事掲載中)

◆発展的な流動性が必要に◆

 世界市場での企業を取り巻く環境が変化しつつある。ギリシャ経済の急速な悪化に端を発した欧州全体の景気低迷は全世界の株式市場へも飛び火し、今後の行方も懸念される。

 そして恒常的な円高が継続している日本では、エレクトロニクス業界の業績の悪化が報じられてきたが、一方、韓国はウォン安傾向が続き輸出企業には追い風になっている。

 この情勢変化を受けて多くの業界での事業戦略が見直されている。自動車業界ではハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、あるいは電気自動車などの電動車両の着実な事業拡大を進めている中、これらの先端自動車の生産を欧米や中国で開始したり準備したりしている。

 このような動きが生じると、輸出入をし辛い電池のような大型コンポーネントは、車両が生産される現地での電池供給を望む声が自動車業界からはひときわ強くなる。さらに連動して、電池に適用される各種部材の現地生産も必要となり、おのずとサプライチェーンの変化にもつながってくる。

 他方、中国政府が海外企業を積極的に誘致する政策的な働きかけも作用している。サムスンの先端技術を有す半導体事業もいよいよ本格的な中国での生産拠点作りに着手する。

 サムスンも日本の素材業界とは大きなビジネスを展開してきたが、これだけの為替変動が続いていることで、このままでは素材の日本調達に少なからずブレーキがかかる。SDIが手掛けているリチウムイオン電池でも例外ではなく、その傾向は続くと考える。

 翻せば、日本の素材業界も国内生産、すなわち輸出前提でのビジネスに固執するのではなく、グローバル拠点づくりが必要な状況を迎えている。もちろん大手の化学メーカーは既に世界的な拠点を構えたり、戦略を構築したりしている。

 もっとも、この動きに拍車をかけるのは為替の問題だけではない。もうひとつの大きな要因は韓国や中国の素材業界が力を付けて発展していることである。両国とも素材メーカーの技術力が向上していることが要因で、それだけ競合するプレイヤーがグローバルに増えてきたことになる。

 2011年基準でのリチウムイオン電池部材の世界シェアを見てみる。正極素材ではシェアの大きい順位に日本の日亜化学、韓国L&F、ベルギーのユミコア、中国北京当升と、多くの国のプレイヤーがひしめく。ここでは特に韓国と中国の躍進が見られる。

 負極素材では同様に日立化成、中国BTR、三菱化学と続くが、ここでも中国の躍進が著しい。それまでは圧倒的に強かった負極素材でも日本勢は中国の追い上げに脅威を感じている。

 電解液では宇部興産、三菱化学、韓国パナックス、中国国泰と続き、ここでも韓国と中国の躍進が注目に値する。更に、ここには名を連ねていない中国の他の電解液メーカーも積極的な事業展開をしていて、やがて浮上してくることが予測される。

 セパレータでは旭化成、東レ東燃、米国セルガード、韓国SKの順で、ここは日本勢が大きな力を発揮している。というのも、日本のこの2社は韓国にセパレータ工場を建設し、韓国内で着実な事業を築いているからである。

 日本の素材業界が強みを発揮していたところに、今や韓国や中国が力を付けて事業を有利な方向へ導いている。技術力を向上させ、原材料調達や人件費を含めたコスト競争力を増強させている結果であり、今後のグローバルビジネスでは更に躍進させる可能性もある。韓国政府もこのような先端素材の研究開発を加速させているし、大手財閥も素材産業の育成に力を入れつつある。

 そのような中、三菱化学は世界各国を活用した多拠点作り、日立化成は中国での生産を決定している。すなわち、日本の製造拠点に拘り続けるとビジネスチャンスを逃すことにもつながりかねない。

 東日本大震災の直後の11年4月8日付けの本欄にも寄稿したが、日本における為替問題や今後も予測されている震災などのリスクヘッジとして、韓国などの海外拠点を強化する意味について議論した。その状況は強まることはあっても弱まることはない。

 世界に冠たる日本の素材産業も今後は発展的に流動することが必要であろう。単独での海外進出を進めていくこと、あるいは韓国や中国メーカーとの合弁による協業方針を打ち出すこと、より革新的な素材研究へ経営資源を注入するなど、その戦略と戦術はさまざまな考えが図られよう。


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