ここから本文です

2012/06/29

<オピニオン>韓国経済講座 第141回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • 韓国経済講座 第141回

◆対中戦略の新展開◆

 欧米大陸を終え、ついにアジア大陸に本腰が入った。2012年5月14日、北京において韓中FTA正式交渉が始まった。04年9月に韓中FTA民間共同研究実施で両国が合意して以来、実に7年8カ月かけて本交渉のテーブルに就いたわけだ。

 これで、中国との交渉が実を結ぶと07年の対ASEAN FTA、10年発効の対インドFTAと合わせて主要アジア大陸(日本を除く)との自由貿易関係が形成され、同時にアフリカを除く3大陸の準国内市場化が完了となる。

 さて対中FTAの意義は経済のみならずその他の要素も大きい。中国は11年では輸出(24・2%)、輸入(16・5%)ともに第1位の貿易市場シェアを占めているのみならず、現在中国に進出している約2万社の韓国系企業、40万人の在中韓国人の存在がその経済重要性を表している。FTA締結は、こうした両国の経済密度をより高めるとともに競争国に先行する意味がある。

 日中韓FTAに臨む日本や10年9月に中台経済協力枠組み協定(ECFA)を発効させた台湾、これからさらに交流密度を高めるであろう欧米諸国などの競争国に先鞭をつけ、市場浸透を深化させておくことや韓中連携強化が北朝鮮の市場開放を促し、朝鮮半島の安定と平和へ導くなど経済外的効果も看過できない。

 また、中国との交渉時期としても今は大きなチャンスだ。と言うのも中国政府が東北開発に本格的に取り組みだしたからである。

 中国経済開発において東北地域(遼寧省、黒竜江省、吉林省、内モンゴル自治区)は、南部地域、沿岸地域に比べ遅れをとってきた。この地域は92年に開放され、同年国連開発計画(UNDP)による図們江流域開発計画が打ち出され、中朝ロの国境地域開発が脚光を浴びたものの、その後大きな進展は見られなかった。03年に政府が東北工程を発表し、東北地域の計画的開発が打ち出されたが、開発主体は地方政府、民間企業であり、依然として香港・広東南部地域との差は歴然としていた。

 現在第5規画(11年~15年)が進行中であるが、その中で東北地域は特別に力点が置かれている。まず、これまで地方政府まかせであった開発主導権を中央政府が直接指導していることだ。この背景にはロシアが極東進出に積極的であり、特に延辺近郊の北朝鮮外交で主導権を取りに来ているため、先にこの地域の主導権を握りたい、東北地域にはこれまで100億元の投資をしたが成果が出ていない、深玔と琿春はまったく対照的な結果になっていることなどがある。

 09年8月30日付で国務院は「中国図們江区域合作開発規画概要」を発表した。これは別名「長吉図を開発開放先導区にする」と言い、低迷する図們江流域開発を国務院が新デザインとして打ち出したものである。すなわち、吉林省の二大工業都市である長春市と吉林市の経済活力と東北辺境地域最先端都市の琿春市を結び一体として東北アジアの工業基地、近代的農業模範基地、科学技術革新基地、現代物流基地及び国際ビジネスサービス基地として形成するとともに、琿春を中国の辺境地域開発モデル区とするものだ。そのために国務院はこの概要の中で政府関連部門との連携強化、図們江流域開発プロジェクトチーム設立、地方政府の困難への支援など積極的に主導することを述べている。

 こうした開発デザインをさらに補強するため、特に開発フロンティア都市である琿春市への支援策として、12年4月13日に「国務院弁公室の中国図們江地区(琿春)の国際協力模範地区建設に関する意見書」(国務院弁公庁12年19号)を発布し、東北・図們江開発に弾みをつけた。

 この中で国務院は12年~15年に琿春に対して中央予算で域内インフラ建設投資を支援、琿春境界線の外の中朝、中ロのインフラ投資の拡充、東北アジア投資合作基金と東北アジア産業合作基金を設立して内外の銀行、証券、保険、信託などの金融機関を導入して、国際金融業務の発展を図るなど琿春開発促進を積極的に主導することを示した。

 こうした状況を踏まえてか、大韓商工会議所は6月18日に中国吉林省の官僚や企業家約100人を招いて、ソウル小公洞のロッテホテルで、「韓国―吉林省経済貿易交流会」を開いたと報道された。

 この場でロッテ、広東製薬など48企業が長春市、遼源市、吉林省の地方政府や企業と個別の投資プロジェクトを進めるという内容の協約を結び、農業、建設、エネルギー、流通、観光等の分野で計213億人民元(約2690億円)規模の投資がされるようである。

 こうした韓中企業の提携は、韓中FTAを睨んでのものであり、韓国と中国東北地域の連携強化が進み、そのことが韓中交流の新展開へ繋がるであろう。


バックナンバー

<オピニオン>