◆グローバル規模の水平協業へ◆
6月中旬にドイツのマインツで開催された二次電池関連の国際会議に出席した。世界各国の自動車メーカー、電池メーカー、素材メーカー、大学・研究機関からと、顔なじみの常連から新規参加者までさまざまだが、多くの関係者が出席した。ここに参加することで有意義なことは、それぞれの企業間同士で個別に会うことよりも、一堂に会することで効率よく大勢の人と意見交換できることにある。もっとも話題提供は個々のセッションにて紹介されるが、それはそれとしても関係する話題や情報交換を各々のネットワークを通じて有益な議論ができることが意義深い。
このマインツでの会議で今回話題にしたひとつは、リチウムイオン電池の安全性と基準、そして試験法と国際標準への布石である。開催企画の前段階で米国の主催議長に、このテーマでの議論ができるように要請を働きかけたことで実現した。いよいよ車載用電池や定置用電池の本格的な市場創製の段階まで発展してきたからである。欧州の複数の機関が車載用や定置用リチウムイオン電池の安全性に関する現状と今後の展望を説明したが、日韓からこのようなプレゼンがないのは寂しい。関連機関の積極的な発信を望みたいが、このあたりの活動が乏しいことで相対的に欧米等の存在感が強くなる。
電池分野では日本と韓国は世界をリードしている一方で、国際標準の取得となると両国は立場的に弱く、逆に欧州諸国や米国などが国際標準取得に対する発言力と意欲は高い。これは日本と韓国における今後の課題のひとつである。
さらに、このような国際会議を企画するのも日韓ではなく米国であり、2001年から米国でスタートさせ、欧州では10年から開始させた。学会系ではなく商業系である本国際会議では、大学・研究機関からの参加は少なく圧倒的に産業界からの参加となり、その分、実用化等のより現実的な動向と今後の展望が語られることで出席者は年々増加の一途を辿っている。
ドイツはエネルギー政策でも原子力発電からの脱却、再生可能エネルギーの促進など、世界的に注目される動きがある。列車に乗って郊外を眺めると、広大な土地に太陽光パネルが広く敷き詰められ、これがドイツの太陽光発電と主張する光景があちこちに見られる。しかし一方で、太陽光による発電コスト増分を買い取り価格で補填する政策が崩れたことで太陽電池の需要が急激に落ち込み、独トップ企業であったQセルズが経営破綻した。政策方針変更による産業構造の不安定さが浮き彫りになっている。
日本でも7月1日から太陽光発電、風力発電、地熱発電の再生可能エネルギー発電による電力買い取り義務がスタートした。メガソーラーなどで発電した電気の買い取り価格は1㌔㍗時当たり42円で20年間買い取る政策設定にしたが、家庭の電気料金負担増で発電コストを賄うという政策の持続性は容易ではない。
さて、欧州、特にドイツの自動車産業はディーゼル、中でもクリーンディーゼルに軸足を置いてきた関係で、ハイブリッド車や電気自動車の実用化は日本に遅れをとってきた。連動して電池産業も不活性であったことから、その底力も強くはなく、フォルクスワーゲンやルノー、そしてダイムラー、BMWなどの大手自動車メーカーがここにきて自動車の電動化に積極的になっているとともに、日本や韓国との協業が一段と活発になっている。フォルクスワーゲンは三洋、現在のパナソニックのリチウムイオン電池で供給契約を、ルノーもダイムラーも日産との電気自動車関連での協業を、BMWはサムスンからのリチウムイオン電池の供給契約を締結している。
加えてBMWはトヨタとの先端技術領域での包括的締結を発表した。ハイブリッドシステムや燃料電池自動車の基幹技術をBMWへ供与、逆にディーゼルエンジンや車体材料の軽量化技術はBMWからトヨタへと双方向の協業ビジネスモデルである。
これまでは国を超えた先端技術領域での提携は珍しかったが、昨今はグローバル協業の波とともに、このような先端領域での交流も増加している。マスコミ等で取り沙汰される技術流出というネガティブな表現ではなく、技術の伝搬拡大というポジティブな協業に期待がかかる。
同様に電池業界でも水平協業が始まろうとしている。NECのリチウムイオン電池の電極をジーエスユアサへ供給することが発表されたが、電極供給というビジネスモデルである。デリケートな電極自体をどういう形でビジネスに発展させていくのかは注目に値する。
いずれにしてもこれまでに前例のない新たな協業スタイルが見られるが、もはやグローバルでの協業、あるいは同業他社との協業など、今後も様々なビジネスモデルが打ち出されよう。