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2012/08/03

<オピニオン>日韓の素材開発協業と知財                                                                 サムスンSDI 佐藤 登 常務

  • サムスンSDI 佐藤 登 常務

    さとう・のぼる 1953年秋田県生まれ。78年横浜国立大学大学院修士課程修了後、本田技研工業入社。88年東京大学工学博士。97年名古屋大学非常勤講師兼任。99年から4年連続「世界人名事典」に掲載。本田技術研究所チーフエンジニアを経て04年9月よりサムスンSDI常務就任。05年度東京農工大学客員教授併任。10年度より秋田県教育視学監併任。11年度名古屋大学客員教授併任。著者HP:http://members.jcom.home.ne.jp/drsato/(第1回から85回までの記事掲載中)

◆グローバル戦略が不可欠に◆

 8年前の2004年9月に韓国のサムスンSDIへ赴任、エネルギー関連の仕事に従事した。その頃、日本からも多くの素材企業が開発やビジネスのために韓国を訪れていた。私も赴任後間もなく、そのような会議に同席したが、日本との関係が良くないのに驚いた。

 例えば、某商社が某素材メーカーを連れて弊社にて会議をしていた所に私も参加した。すると早速商社の方が私の方を見て「いい所に来てくれました。問題が多いので是非聞いてほしい」とのこと。どうしたのかと思いきや、それは素材メーカーがサンプルを供給しても評価データのフィードバックがない。そうかと思うと担当が代わったにも拘わらず引継ぎもないなどで、一向に進まないという苦情。他にも無いか調べると同様なケースがあっちにもこっちにも、あまりひどかったので、このままでは日本の素材メーカーから見放されると危機感を抱き、経営問題として提言した。

 結局、私が関係修復のための責任者となって、そのような問題を早期に解決する役割が回ってきた。一行を引き連れて、関係が悪化していた日本の企業数社を訪問し、これまでの経緯に対する反省、さらには改善のための方案についても触れて丁重に対応させていただいた。

 それから暫くの間は、日本の素材企業との協議には時間の許す限り参加し、このような事態が起こらないように、お目付け役としても演じた。その当時の状況に比べると今は一転した。スピード感のあるデータのフィードバックがあるばかりでなく、どこがどのように良いのか良くないのかまで定量的に返答をしてくれるし、双方の協議も有意義なケースが多いと複数の素材企業から聞いている。むしろこういう開発文化は日本企業のお家芸であったはずなのだが、最近、多くの素材企業から聞く言葉は、日本の電池企業が○か×の結果のみのフィードバックで、しかもスピード感も無く、したがってどこがどのように不適合で、今後どうすれば良いかという指針もないと言う。

 B to Bのビジネスを行う電池企業の場合には、セット事業を行っている企業側が顧客であるのだが、以上のような開発文化の違いは立場が逆転しても類似するところが少なからずあると考える。結局、顧客側のニーズを的確に把握できなければ、満足していただける製品には至らなくなるので、その双方の協議や考え方の共有が製品の良し悪しにつながってくる。結果として製品の浸透度合い、すなわちマーケットシェアに及ぶため、この協議の場面は極めて重要な意味をもつ。

 04年にはモバイル用リチウムイオン電池のマーケットシェアが世界4位であったのが、10年第3四半期には世界トップに躍り出た。開発文化の姿勢と顧客ニーズの的確な把握と実践が功を奏した結果と考える。

 さらに最近では、素材企業側の行動様式にも違いが見受けられる。数年前までは、新しい先端素材は一旦、日本の電池企業に紹介された後で、サムスンにも紹介という対応をとってきたところでさえ、最初にサンプルを紹介していただくケースが増えてきたことである。もちろんマーケットシェアが向上した結果という背景もあるのだが、双方が有意義なコミュニケーションをとることでこのような密な関係構築ができているものと思う。そういう友好関係が高じて、素材分野でもサムスンとの合弁事業が増えてきた実態がある。

 日本の素材産業は世界的にも優位な事業展開をしてきたが、現在や今後の韓国や中国の追い上げを考えれば戦略的な工夫が必要だ。欧米の企業も電池分野でのビジネスチャンスを享受するためのグローバル提携が進んでいる。素材分野は常にアカデミックな基礎研究からの基盤が必要で、その点、日本は材料科学を主体とした研究文化が根づいているし力強い。そこから応用分野を目指す企業との連携なども活発であるが、その割に知財ビジネスが拡大していないのが気になる。

 登録特許を有効に活用し国内外を問わず、知財ビジネスを積極果敢にすることで先進国や新興国でのビジネスをもっとリードできるのではないか。欧米の知財訴求は厳しいものがあるだけに、日本も韓国も太刀打ちできる論議と行動が求められている。1990年代に、ニッケル水素電池の負極水素吸蔵合金に関するあまりに広範囲な請求項をもつ米国ベンチャー企業の特許訴訟によって、日本の電池メーカーが莫大なロイヤルティーを支払うという辛酸を舐めた経緯があった。

 マーケットシェアの競合も、ビジネスの協業もグローバル化が拡大している中、知財部門もグローバル戦略が不可欠になってきた。特許に対しては特許で防衛するビジネスが日常茶飯事的に進行している。11年3月にサムスン電子とIBMが知財部門でグローバル提携したような類似したビジネスモデルが今後増加していくものと考えられる。


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