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2012/11/23

<オピニオン>韓国経済講座 第146回                                                        アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

  • アジア経済文化研究所 笠井 信幸 理事

    かさい・のぶゆき 1948年、神奈川県生まれ。国際開発センター研究員、ソウル大学経済研究所客員教授、秀明大学大学院教授を経てアジア経済文化研究所理事・首席研究員

  • 韓国経済講座 第146回

◆中国は見ている◆

 日韓の企業は中国市場の変化に追い付いていない、と中国は見ているようだ。韓国は中国市場開拓において1992年の国交樹立以来、これまで2度の対中投資ブームを経てきた。

 国交樹立を契機とした第1次投資ブーム、通貨危機からの回復過程に盛り上がった第2次投資ブームだ。

 これまでの経緯から見ればリーマン・ショック以降の第3次ブームが予想されるが、未だその兆候は見いだせない(表参照)。

 その要因としては欧米など大陸とのFTA締結、ヨーロッパの財政危機の影響なども予想されるが、中国市場における韓国の企業展開の状況も看過できない。韓国の対中投資停滞をどう見たらよいのだろうか。

 中国は、これまで外資導入で輸出を増加させ、沿岸部を中心にNIEs型経済を形成してきた。その過程で内陸市場を育成し、現在では内需主導型発展へ移行しつつある。こうした変化は、外国企業に中国の消費市場としての魅力を高めている。しかし、進出企業の魅力であった低賃金は上昇し、中低技術製品は飽和状態にある。

 日本や韓国の企業はこうした中国市場の変化に十分に対応できているだろうか?中国市場にうまく対応してきたのは台湾・香港企業であると言われる。その要因として挙げられているのは中国市場への適応力と対応の速さだ。

 中国市場にはいくつかの特徴がある。その一つが発展と産業転換が同時に進行する状況である。一般的に産業発展は軽工業から重工業へとシフトするように低技術の産業が定着し発展過程を経て次の高度な産業へと順に移行することで産業構造が高度化する。韓国経済はまさにこの過程を歩んできた。

 しかし発展が進む中国市場のあり様は異なる。つまり低技術産業の発展と同時に高技術産業の定着・発展さらには先端技術産業の導入が同時に起こるのだ。いわばオーソドックスな産業発展段階移行の中に突然段階を飛び越えた高度技術産業の定着・発展が同時並行で進行する市場なのである。さらに新産業が初期段階にあるため産業の集約化は進んでおらず同一産業が群雄割拠しているのだ。

 このように変化の激しい、順不同な産業発展が進む市場では現場の即断即決が勝機を見極める極意であると言われる。台湾・香港企業はこうした市場に巧みに適応し市場を拡大しているのだ。

 ところで日韓企業はともに本社機能が強く、こうした変化の激しい中国市場での経営には苦戦を強いられる。

 中国から見ると、日韓企業は企業規範が厳しく、決裁権限も現地法人は弱いため意思決定が遅く勝機を逃すことになっているという。もっと柔軟的な、現地事情に見合う決断システムの必要性が望まれている。

 企業経営の困難性は中国側にもある。中国には特有の様々な政策があるが、それが目まぐるしく改正されるためその対応がうまくいっていないと言う指摘もある。

 特に地方では中央からの政策にその地方の政策も加えられるため二重の対応が必要となる。韓国や日本ではあまり経験しない対策だ。

 また、納税方法にも問題がある。日本や韓国では企業納税は年1回まとめて納税するが、中国では税金引き落とし専用口座を設け、毎月そこから引き落とされるのが一般的である。

 ある進出企業の経験では、毎月の引き落としにおいて月によっては見込み納税をしなければならない場合もあり、当月決済を見込んで多く納税する場合もあるという。

 しかし決済が翌月になるとその分の過納税分の返還を求めるが、次の月でその分を清算すると言われ、それが年度末まで堆積するが返金はされないと言ったありえないリスクもあるという。

 こうした未成熟な経営環境の中で日韓企業の強みは先進的な経営技術とスタッフの高いプロ意識にあると言う。こうした長所は中国市場の成熟につれてさらに強い競争力となる。眼前の変化に惑わされることなく市場成熟に合わせた企業経営が求められている。


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