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2013/01/11

<オピニオン>私の日韓経済比較論 第24回 財閥による「格差拡大」は間違い                                                      大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

◆労働市場の柔軟化と年金制度の成熟が課題◆

 昨年12月19日に韓国では大統領選挙が行われた。その結果、セヌリ党の朴槿惠候補が勝利し、来たる2月25日に大統領に就任する。今回選挙の争点の一つは財閥規制であったが、その背景には「財閥によって格差が拡大」との認識が国民の間で広がっているからである。

 よって争点といっても財閥に対する規制強化の是非ではなく、規制強化を前提として、その強弱が争点になったと言ってよい。よって、朴槿惠次期大統領も財閥に対する規制を強化すると見られるが、筆者は、財閥によって格差が拡大したわけではないと考えている。

 国民生活における格差を測るためには、世帯所得の格差を数値化できる指標を見ることが必須である。幸いなことながら韓国では、信頼性が高い「家計動向調査」から世帯所得を把握できるため、そのジニ係数を見ることで格差の程度や推移を見ることが可能である。

 「家計動向調査」の世帯所得データ(可処分所得)に基づくジニ係数は、90年から入手可能であるが、これは、①単身世帯を除く、②都市に居住する、③被雇用者といった3つの条件を満たしている世帯のみが対象との弱点がある。

 まずこれを見ると、90年には0・256で、97年まで大きな変化はなかったが、98年には0・285と大きく高まっている。その後は大きく変化せず、11年で0・289である。つまりこの数値からは、通貨危機前後で大きくジニ格差が拡大して、その後は落ち着いた動きであることがわかる。

 ただし、①~③の条件を満たした世帯は極めて限定的であり、この数値だけで全体の動向を判断することは難しい。そこで96年と2000年の2時点しかデータはないが、全世帯を対象とした世帯所得調査である「世帯消費実態調査」から世帯所得を得て、そのジニ係数を見ると、0・289から0・334(筆者導出)に高まっている。この2時点は間に通貨危機を挟んでいるため、全世帯ベースのジニ係数も通貨危機以降に拡大したと判断できる。そして遅ればせながら06年からは「家計動向調査」も対象が全世帯に広がり、全世帯ベースのジニ係数が毎年把握できるようになった。

 ここからジニ係数の動きを見ると、06年は0・306、11年には0・311である。つまり、全世帯ベースのジニ係数も、通貨危機以降に大きく高まり、その後は横ばいで推移していることがわかる。

 財閥が格差を拡大しているとの主張を詳しく見ると、財閥が利益を独占している点が根拠になっていることが少なくない。

 確かにサムスン電子だけ見ても、近年の利益は日本の大手電機メーカーを大きく上回っている。しかし財閥の利益が増えた時期は、2000年代中盤以降であるが、この時期に所得格差が拡大した事実はない。また筆者の分析によれば通貨危機以降に所得格差が拡大した理由の一つは、非正規職が増加したからである。そして非正規職が増えた理由は、韓国では解雇規制が厳しく、正規職を簡単に辞めさせることができないこと、つまり労働市場の硬直性が主因である。

 なおOECDによる最新調査から国際比較をすると、韓国のジニ係数は加盟国では中ぐらいであり、日本よりは低いなど顕著に格差が拡大しているわけではない。また韓国では現役世代のジニ係数が0・303、高齢者世帯が0・396であり、高齢者世帯における格差が、全体の格差を引き上げている。これは財閥のせいではなく、年金制度十分に成熟していないため、高齢者間の格差が大きいことが要因である。

 国際的に見て、韓国における所得格差が著しく高いわけではない。しかし現状の所得格差が高すぎると判断し、これを縮小させたいと考えるならば、財閥に対する規制強化よりも、労働市場の柔軟化させ、年金制度を成熟させる方策を講じた方が有効であろう。


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