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2013/01/18

<オピニオン>転換期の韓国経済 第36回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第36回

◆新たな日韓関係構築に向けて◆

 李明博大統領の一連の言動により日韓関係が悪化したが、両国における新政権発足を契機に関係が正常化し、経済関係にも新たな動きが生じることが期待される。2012年10月末に日本と韓国が日韓通貨スワップ協定の拡大措置を終了したことについて、一部で韓国が日本との関係を見直し、中国との関係を強めたという解釈がなされた。はたしてそうなのだろうか。

 日本政府が「制裁措置」としてスワップ協定の拡大を延長しない可能性を示唆したため、その観点からとられがちであるが、両国がお互いの面子を保ちつつ、ウォン急落のリスクが小さくなったことを受けて、「経済問題として処理する」という「暗黙の協調」があったと考えるべきである。

 そのことを裏づけるかのように、11月に、延期されていた財務大臣会合が再開された。「両大臣は、10月31日に予定通り二国間通貨スワップの時限的な増額を終了した後も、依然として両国の金融市場が安定し、マクロ経済の状況も健全であるとの認識で一致した。両大臣は、これまでの時限的な措置がグローバルな金融不安の両国経済への波及を抑え、また、韓国の為替市場だけでなく地域の金融市場の安定確保にも大きく貢献してきたと認識している。両大臣はまた、両国及び世界経済の状況を注意深くモニターし、必要が生じた場合には引き続き適切に協力することに合意した」(財務省ホームページ)。新政権発足を契機に日韓関係が正常化に向かうと考えるのは、次の理由からである。

 日本に関しては、安倍政権が重視する日米同盟の相手である米国のオバマ大統領が日韓関係を憂慮している上、日本政府が対中外交を進める上で日米韓の連携が不可欠であるため、韓国との関係修復が優先課題となることである。1月4日の朴槿惠次期大統領への特使派遣はその証左である。

 韓国に関しては、日本が重要な経済パートナーであることがまず指摘できる。韓国の産業高度化に不可欠な日本からの投資が増加している事実を踏まえれば(図)、政府間関係の悪化は避けたい。

 つぎに、北朝鮮政策を進める上で米国と日本との関係強化が不可欠なこと、さらに東アジア地域で台頭する中国を牽制するためにも日本との協力が必要なことである。アジアの経済統合を進めていくにあたり、民主主義と市場経済を基本原理とする日本と協調して、ルールメーキングで主導的な役割を担いたいと考えるのが現実的ではないだろうか。

 日韓両国政府がお互いの重要性を再認識すれば、関係を強める政治力学が働く可能性は高い。経済関係にも、新たな動きが出てくることが期待される。それは日韓EPAの政府間交渉の再開である。

 同交渉は03年12月に開始されたが、翌年11月の交渉を最後に中断した。日本政府が農水産物市場の開放を拒んだことが理由の一つである。

 日本にとって、日韓EPAはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)よりも進めやすい。その理由は、①韓国がこれまで締結してきたFTAをみると、すべてにおいてコメが譲許対象から除外されこと、②関税撤廃時期について、チリとの間でトマト、キュウリ、豚肉などが10年以内、米国との間で牛肉が15年以内、EUとの間で豚肉が10年以内と、関税撤廃までの期間が長期に設定されたことから判断して、農業分野の自由化が「無理のない範囲」で進められるからである。

 韓国側にも、交渉再開を受け入れる環境が整い始めた。10年前は、日本からの工業製品輸入に対する警戒感が強かったが、現在はそれほどでもないことである。この10年間に家電製品のポジションは逆転しており、自動車の一部は日本からの輸出が米国(日系企業の米国工場)からの輸出に代替されている。対日貿易赤字も総じて縮小傾向にある。

 朴槿惠次期大統領は日韓EPAに前向きといわれているため、日本政府が韓国に対して政府間交渉再開に向けての積極的な提案をすることが賢明であろう。


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