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2013/02/15

<オピニオン>転換期の韓国経済 第37回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第37回

◆新政権の景気対策と改革バランス◆

 2月25日、朴槿惠大統領が誕生する。短期的な景気対策に加えて、中長期的な課題への取り組みが求められるため、難しい政策運営を迫られるであろう。

 最初に、景気の現状をみよう。2012年10―12月期の実質GDP成長率(前期比)は、7―9月期の0・1%を上回る0・4%になった。輸出▲1・2%、設備投資▲2・8%(3期連続のマイナス)、建設投資▲1・3%と軒並みマイナスとなったが、民間消費が0・8%増となり景気を下支えした(図参照)。

 ただし、消費の伸びが加速したのは、景気対策(利下げ、自動車・大型家電製品に対する個別消費税率引き下げ)効果と「厳冬効果」(冬物衣料、暖房機器販売の好調)によるところが大きい。実際、減税措置が12年末で終了した影響もあり、自動車販売台数は11月、12月の14万台から1月に11万台へ減少した。消費の勢いが増すためには、所得・雇用環境の改善が不可欠である。

 輸出に関しては、最大の輸出先である中国の景気持ち直しは好材料であるが、急ピッチで進んだ円安・ウォン高の影響が懸念される。内外需の増勢が弱いため、設備投資の低迷が続く可能性がある。不動産市況をみても、ソウル特別市のアパート価格が1月に前年同月比▲4・7%(近年最大の落ち込み)となるなど、低迷から抜け出せていない。

 景気回復が遅れれば、国民の不満が一挙に噴き出す恐れがあるため、新政権は景気対策を疎かにできない。その一方、国民の「経済民主化」への期待を考えると、それも迅速に進めていく必要がある。

 予想される動きは、財閥グループの代表を呼んで、大統領が政治権力側の不正根絶に取り組むことを表明するともに、財閥グループから、①中小企業との共生(中小企業業種への参入禁止、公正な取引価格の実現、グループ外企業への発注など)、②社会的コストの負担(正規職の採用枠増加、社会保険負担増など)、③利益の社会還元など、「経済民主化」政策への協力をとりつけることである。財閥にしてみれば、「国民とともに歩む」経営を確立できるかが問われることになる。

 「経済民主化」と並行して、中小企業の育成・振興に新政権は力を入れる方針である。大企業に続く企業の層が厚くなれば、若年層の就職難の緩和と財閥グループへの経済力集中の防止が期待される。若年層の就労が促進されれば、出生率の上昇と「高齢社会(全人口に占める65歳以上の人口が14%以上)」を支える財源確保にもつながる。韓国では少子化の加速により生産年齢人口(15~64歳)が2017年に減少に転じるとともに、「高齢社会」に移行する見通しであるため、準備は「待ったなし」である。

 中小企業の重要性が指摘される一方、その育成が難しいのも事実である。大企業と中小企業との間に存在する所得・福利厚生面で大きなギャップ、面子などにより優秀な人材が中小企業へ向かわない現実がある。その結果、大企業との格差が埋まらない。この悪循環をどうやって断ち切るか、知恵を出す必要がある。中小企業という響きがネガティブであるならば、「未来の大企業」育成プロジェクトと命名するのも一案である。

 また、財閥グループの経済力があまりにも大きいため、「中小企業業種」への大企業の参入を規制する措置はある程度必要であるが、保護するだけでは、中小企業のイノベーションを阻害しかねない。この点で、新政権は政府主導の研究開発プロジェクトの予算を、従来以上に中小企業に割り当てる方針である。

 今後、産業育成と中小企業の育成を有機的に関連させることが望まれる。例えば、再生可能エネルギーと最先端のIT技術を活用したスマートシティの建設は、新たな物流、次世代自動車、教育・保健・医療産業などの成長を促すとともに、技術力のある中小企業にビジネスチャンスを与えるだろう。

 以上、景気に十分配慮しつつ、中長期的な課題である「経済民主化」と「高齢社会」対策をいかに進めていくのか、朴槿恵次期大統領の手腕が今後試されることになる。


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