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2013/04/19

<オピニオン>転換期の韓国経済 第39回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第39回

◆中国の変化を見据えた戦略◆

 韓国では2000年代に入って、財閥グループを中心に大企業がグローバルな事業展開を加速させた。経済のグローバル化が進むなかで中国との経済関係が強まり、中国は今や韓国にとって最大の貿易相手国であるとともに、主要な投資先となった。こうした経済関係の緊密化もあり、近年韓国政府は中国との関係を強めているが、経済面では「脱中国」の動きが始まっていることに注意したい。かつて米国がそうであったように、新興国の台頭に伴い中国のプレゼンス低下は避けられないのである。

 実際、この数年韓国とASEAN(東南アジア諸国連合)諸国との経済関係が再び強まっている。80年代末から韓国企業のASEAN諸国への生産シフトが広がったため、90年代前半に対ASEAN輸出依存度は上昇した。その後中国の台頭に伴い、04年には9・5%にまで低下したが、05年以降再び上昇し、12年には14・4%となった。また直接投資の動きをみると、10年以降ASEAN向け投資が中国向けを上回っている(下図)。とくに12年は上位10カ国のなかにインドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシアの4カ国が入るなど、ASEANに向かう動きが強まっている。

 こうした背景の一つに、中国経済の変化がある。中国における人手不足と賃金上昇、人民元の切り上げ、環境問題、政治・社会の不安定などが、「生産拠点としての中国」の見直しと「過度な中国依存」の是正につながっていると考えられる。

 韓国企業のなかに中国以外の生産比率を高める動きがみられる。サムスン電子は10年にベトナムで携帯電話の生産を本格的に開始した。これによって、ベトナムでの生産は同社の携帯電話生産の約40%を占めるまでに拡大した。需要の拡大を背景に、第二工場を北部のタイグエン省の工業団地に新設する計画である。もう一つは、ASEAN地域の再評価である。まず、経済統合に向けた動きが加速した。アジアではASEAN域内の経済統合、ASEANと域外国との経済連携協定締結というように、ASEANを軸に経済統合に向けた動きが進んできた。さらに最近、ASEAN10カ国に、日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランドの16カ国が参加する地域包括的経済連携(RCEP)の実現に向けた取り組みが始まった。

 安定した成長が続いていることも、再評価の一因となっている。成長の牽引役は「中間層」の増加を背景にした消費の拡大と投資の増加である。企業の設備投資に加え、地域開発や国をまたぐ広域開発、輸送網の整備などインフラ投資が活発に行われている。

 アジアを取り巻く環境が変わるなかで、今後、以下に指摘する動きが予想される。

 第1に、「生産拠点としての中国」の見直しが進むことである。労働を含む生産コストの急激な上昇を受けて、生産拠点を第三国に移したり、国内に戻す動きが出ているため、将来的には中国以外で生産して、中国に輸出する動きが広がるであろう。アジア域内の自由貿易の進展もこの動きを後押ししよう。

 第2に、中国の成長鈍化に対応した事業戦略の見直しである。2000年代初めには多くの企業が、中国では不均衡を解消しながら安定成長へ移行すること、市場経済化が進み政府の介入が減少することを期待して、中国での事業を拡大してきた。しかし、実態は必ずしもそうした方向に進んでいない。むしろ最近では、生産能力の過剰、労働人口の減少、「国進民退」などから、中国経済の先行きを懸念する見方が増えており、企業のなかに、事業の縮小や生産品目の見直しを進める動きが広がるであろう。

 第3は、中国の影響力増大を抑制する力が作用することである。アジア地域で軍事的、経済的に影響力を増す中国は、多くの国にとって脅威となっているため、アジアの経済統合を進めるなかで、ASEAN諸国と日本、韓国との協調が強まる可能性がある。

 以上のように、企業にとっては中国の今後を見据えた戦略が重要となっている。


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