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2013/10/18

<オピニオン>転換期の韓国経済 第45回                                                       日本総合研究所 向山 英彦 上席主任研究員

  • 転換期の韓国経済 第45回

    むこうやま・ひでひこ 1957年、東京生まれ。中央大学法学研究科博士後期課程中退、ニューヨーク大学修士。証券系経済研究所などを経て、2001年より(株)日本総合研究所勤務、現在調査部上席主任研究員。中央大学経済学部兼任講師。主な著書に「東アジア経済統合への途」など。

  • 転換期の韓国経済 第45回①

◆縮小が懸念される日韓経済◆

 日韓の政府間関係の悪化と「円安・ウォン高」が、両国間の経済関係にさまざまな形で影響を及ぼしている。

 第1は、韓国の対日輸出の減少である。対日輸出は2010年、11年に輸出全体を上回る伸びを記録した。特に11年は日本で東日本大震災による工場の操業停止と電力不足、「超円高」などが生じたため、前年比+40・8%と著しく伸びた。以前から増加していたスマートフォンに加えて、石油製品や日用品、自動車部品などが著しく伸びた。

 急増した反動と年末以降の「円安・ウォン高」により12年は▲2・2%へ低下した。13年に入ると減速が進み(下図)、1~8月は全体の+1・7%を大幅に下回る▲12・2%となった。

 品目別では、鉄鋼製品が▲28・5%となった一方、10年から12年まで2桁の伸びを続けた自動車部品は▲2・3%にとどまった。これは韓国企業を含む形で、部品の調達ネットワークが形成されているためといえる。対日輸出の減少により、11年から2年連続で減少した韓国の対日貿易赤字が再び増加傾向にある。

 第2は、日本からの観光客の落ち込みである。李明博前大統領による竹島(韓国名は独島)上陸を契機に政府間関係が悪化したことに、「円安・ウォン高」の影響が重なり、12年秋口以降日本からの観光客が減少し、今年4月以降は前年水準を2~3割程度下回っている。この落ち込み分を中国からの観光客の増加(1~8月は前年同期比+57・3%)が穴埋めしている。

 第3は、日韓の通貨スワップ枠の縮小である。欧州債務危機後のウォン急落を受けて拡充された(130億㌦から700億㌦)分が期限を迎えた12年10月末に、延長されずに終了したのに続き、今年7月3日に期限を迎えた中央銀行の30億㌦分も延長されずに終了した(残る100億㌦分は15年2月に期限到来)。ウォン急落のリスクが小さくなったことによるものであろうが、政府間関係の悪化が影響したのは否めない。

 その一方、韓国銀行は今年6月、韓国と中国との通貨スワップ協定(14年10月に期限を迎える)を3年延長することに合意したことを表明した。第4に、日本からの直接投資の減少である。13年上期の日本からの直接投資が前年同期比▲48・6%となった。昨年急増した反動によるところが大きいとはいえ、「超円高」の是正、韓国での電力料金引き上げ、日本政府によるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉への参加などにより、韓国に投資するメリットは以前ほどではなくなりつつある。

 このように日韓の経済関係はやや縮小する傾向にある。さらに、ここにきて日本企業が懸念を抱く事態が生じた。それは戦時中に徴用された韓国人労働者が日本企業を相手に起こした訴訟で、ソウル高裁と釜山高裁が賠償を命じる判決を言い渡したことである。

 この背景には、12年5月に大法院(最高裁判所)が、1965年に締結された「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」によって個人の請求権は効力を失っていないとの見解を示したことがあった。

 日本政府が請求権問題は「解決済み」であるとするのは、同協定の第二条第一項に、「両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、51年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」と規定されているからである。

 この問題を含む両国間の懸案事項を少しでも解決するためには政府間による話し合いが不可欠であるが、首脳会談の実現に目途が立たない状況が続いている。

 両国政府には歴史認識での隔たりを少しでもなくす努力をするとともに、大局的な観点に立って日韓関係をより高いレベルに引き上げることが求められている。


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