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2013/03/15

<オピニオン>経済・経営コラム 第51回 世界一奪還したトヨタ、世界5位の現代                                                     西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

  • 西安交通大学管理大学院 林 廣茂 客員教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学、同志社大学大学院ビジネス研究科教授を経て中国・西安交通大学管理大学院客員教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆期待かかるASEANの成長◆

 2012年、世界の自動車市場の規模(販売台数)は+5・5%成長して8090万台になった。大多数の小型車(セダン・SUV)では、先進市場対新興市場が45対55で、後者の割合が更に大きくなった。久方ぶりに米国と日本が大きく伸び、+13%増の1450万台と+28%増の540万台に達した。

 世界中で、トヨタと現代の攻防が繰り広げられた。トヨタは、反転攻勢して、+23%の眼を見張る成長を遂げ、2年ぶりに世界一を奪還した。現代は、成長率では+8%でトヨタを下回ったが、量的拡大よりも質的進化(上級車移行)の戦略を貫きながら、先進市場と新興市場の両方で着実に消費者の支持を拡大して世界5位を確保した。

 トヨタは、販売台数で過去最大の945万台を達成した。前年から+180万台の驚異的な増加である。それまでは07年がピークで940万台だった。完全復活とはいえないが、販売台数は、日本247万台、アメリカ208万台、ASEAN120万台などの大躍進に支えられた。世界最大の市場である中国では、9月以降日本車不買の被害を受け5%減の84万台で終わり、「中国での苦境が無かりせば」の思いが残った。EUでも54万台に減速した。インドとロシアでも各+27%伸長したが、合計30万台弱に留まった。

 現代は、712万台の販売で、対前年+52万台の緩やかな成長だった。しかし、4位のルノー日産との差が△98万台に縮小し(前年は△143万台)、6位フォードとの差は+145万台に拡大した(前年は+90万台)。米国で着実に+11%伸ばし126万台を達成。中国の販売台数139万台は、日本勢の苦境を尻目に、市場拡大+4・3%の3倍近い+12%の急成長の結果である。縮小したEUでは、全メーカーで唯一現代が+12%の奇跡的な販売増で77万台を達成した。現代の金城湯池は、中国が一番で、米国、韓国115万台、EUの4カ国・地域の順である。営業利益は、現代と起亜を合わせて11兆9600億ウォン(約1兆550億円)で過去最大だ。

 トヨタは近年、国内外で次々と苦境に見舞われた。08年のリーマンショック後、米国など先進市場の自動車市場が一気に縮小する一方で、中国などの新興市場が急拡大した。先進市場では燃費と価格が競争次元となり高級車が売れなくなった。新興市場では安くて見栄えの良い入門車が求められた。そのため、トヨタのそれまでの先進市場依存と新興国での高級志向のビジネス・モデルが無効になった。09年の業績は、ピークの07年から△155万台も減少した。円の急激な連続上昇で収益性も下がった。10年には、米国を震源地にした大量リコールにプリウスの技術欠陥疑惑が重なって、トヨタの品質神話が大きく揺らいだ。11年、東日本大震災とタイの大洪水で、世界中のサプライ・チェーンが寸断され、完成車の世界への供給が滞った。その間、先進市場・新興市場それぞれに対応した商品開発と現地でのスピーディな意思決定ができるビジネス・モデルに創り変え、1㌦=79円でも利益が出せるグローバル生産体制と供給網を構築して、12年、起死回生の反撃に打って出た。そして世界一に帰り咲いた。

 現代はその間、トヨタの苦境とは無縁で、先進市場と新興市場それぞれに現地ニーズ対応の商品開発をスピーディに実践し大量の広告販促を投下した。量販車の品質で日本勢と肩を並べつつデザインでは日本勢を上回る評価を受けた。ウォン安を追い風にして、価格競争でも優位に立った。現代は躍進を遂げ、07年の400万台弱から12年までの5年間で+310万台を積み増した。米国では、トヨタに大きく水を空けられているが、日産を抜きホンダに肉薄している。EUでトヨタ・日産・ホンダを大きく引き離した。ロシアとインドではトヨタ、日産、ホンダの前を走り続けている。唯一の泣き所はASEANで、トヨタが断トツのトップで日本勢が80%近いシェアを占めている。

 13年以降の先進市場は、「弱含みか縮小」の予想がされている。日本はエコカー購入補助金が中止・減額されるかどうかで販売が左右される。前年のような大きな伸びは期待できない。米国も二桁台の成長は今後見込めないと予想されている(JDパワー)。EUは債務危機などの混乱が続く限り市場の縮小が続くとされる。だから、20年までに中間所得層人口が倍増するBRICsやASEANに成長の期待がかかる。

 トヨタは、先進市場での復活の原動力になった「新型カムリ」「新型カローラ」「プリウス」ファミリーの更なる伸長、新興市場で現地対応モデル「エティオス」などによる現代への巻き返しが必要だ。「現地対応の商品とスピード経営」モデルが有効だが、現代のこれまでのブランド構築の成果を切り崩すのは容易ではない。EUでの長期低落をどう立て直すのかの課題もある。現代は、トヨタと真逆で、米国でのトヨタへの対抗、BRICsでの飛躍的な成長、ASEANでのトヨタへの巻き返し、EUでの一段と強いブランド構築に舵をきると予測される。世界4位への挑戦も始まるのではないか。

 トヨタには三つの大きな強みがある。一つは、高級車「レクサス」がアメリカや新興市場で人気を回復していることだ。12年、世界で47万7000台を販売した。13年には、07年の過去最高の52万台超えも無理ではない。現代の高級車「ジェネシス」にはない強みである。二つ目は、環境車で、HVの「プリウス」ファミリーが世界をリードしていることだ。現代の環境車は、世界市場への登場の情報がない。三つ目。15年の市場投入にむけて、究極の環境車・FCV(水素の燃料電池自動車)の開発でトヨタが(日産とホンダも)世界で先行している。現代にとって、将来の成長と利益の源泉である上の三つの領域での、先行トヨタへの追撃戦略の構築が大きな課題であろう。


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